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第12話

イケメンと話しているといつの間にか漫才になる。 気が付いたら朝で女の霊もイケメンの霊も成仏して朝だったというオチがつくのか。 いや、このままでは駄目だ。 秀一は自身が何をしようしたのか、成し遂げようとしたかを思い出す。 決めなくちゃいけない。 「ーーわかった、協力するよ。で、どうすればいい?」 ぐっと拳を握りしめ。震える足でもしっかりと立って秀一は答える。 男は秀一の決意を見て、嬉しそうに笑みを浮かべた。 『まずーー俺が鏡の封印から出る必要がある。そうしたら俺は君と一緒に移動出来るから、彼女のところまで行けるだろう』 男は鏡に、化け物はトイレに封印されていて動けない。 秀一が男の封印を解けば、二人で化け物をどうにか出来る、という事か。 色々不明瞭だがそう理解した。 『ーー君の中に入りたい』 「……はい?」 『俺が君の中に入れば、君のエネルギーが貰える。それが叶えばこの鏡からもーーきっと出られる』 中とは?体内に?霊を? 合体? 秀一の目がぐるぐるする。 そんな馬鹿なこと。 何を言ってんだ? 「……!そんなの、嫌に決まってるだろ!中ってなんだよ!僕を乗っ取る気か?!」 『違うって。運転士は君で、俺は車掌だ』 「そんな歌はあるけど、電車じゃないし」 『飛行機ならいいのか。パイロットが君で、キャビンアテンダントが俺ならどうだ』 「男がCAやんなよ」 またアホな会話に引きずり込まれている。 「大体、お前が嘘ついてないって保証どこにあんだよ?!嘘ついて取り憑こうってんじゃないのか?」 『そんなのーー』 あまりの不思議な光景に秀一は目を見張る。ズズズ…と、鏡の中から黒い霧が出てきたからだ。 霧は秀一の細い首筋の周りをぐるりと囲み、実体化した。 そのまま首を絞めつける。 「……ッ!」 呼吸を奪われて秀一の顔は赤くなる。 『やろうと思えば、さ。今ここで君を殺すことぐらいは出来るんだ、俺。 彼女は髪を操るんだろう?同じような力だな。しかし、君を今殺すことはなんの意味もない』 男は酷く冷めた表情を浮かべる。 そして秀一の首を絞めるのを止めた。 一瞬でも気道を塞がれそうになったため、秀一は激しく咳き込んだ。目尻には涙が滲む。 「……乱暴だな」 『すまない。俺が求めているのは協力と、相方ーーつまりバディだよ。頼む、力を貸してくれないか』 秀一は悩んだ。 力を貸すのはいい。が、そのために霊を憑依させろ? 余りにもめちゃくちゃな提案だ。 憑依って普通死なないか? 取り殺される、呪い殺されるとよく言うではないか。 エネルギーを吸いとられてカラカラの老人になったりするんでは。 しかし、独りで化け物に立ち向かっても勝てないのは事実だろう。 逃げないためにはーー 失敗を恐れず、出来ることを、するのだ。 男の目を見据えて、秀一は言った。 「僕は、人間を信用してないんだ。 さっきもリスナーたちに酷い扱いを受けた。 配信を見てコメントをくれるから、応援してくれていると思っていたんだけど、面白がられているだけだった。 学校では女の子みたいだって、いじめられているよ。最初は庇ってくれた友達もいたけど、いつの間にかいなくなった。 誰も、信用出来ない。 人間なんか、信用出来ないんだ。 だけどーー」 「お前は人間じゃない、幽霊だ。だったらむしろ、信用してやろうかな」 投げやりのようで、そうではない。秀一は決心したのだ。この摩訶不思議な状況を、とことん見極め突き詰めてやろうと。 霊体を自身に取り込んだらどうなるかなんてわからないが、死ぬ覚悟をしていたんだから、先の自分の心配なんてナンセンスだ。 「いいよ。入って」 意を決して秀一は答えた。

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