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第18話
「どうしよう、警察の人や救急隊員の人が突入して来たら、あの化け物にやられちゃうよ!」
秀一は焦る。こうなることを恐れたからこそ、独りでもなんとかあの化け物を倒そうとしたのだ。
彼らが到達する前に、なんとか出来ないか?
しかし、男はこう答えた。
『大勢の人には恐らく襲いかからない、出てこない。取り憑けないしな』
「え、そうなんですか…?」
『君は大勢の前に現れたという幽霊の目撃談を聞いたことがあるか?』
「確かに、ないです」
『それには理由があるんだ。幽霊というのは基本的に助けを求めているんだよ。
考えてご覧。元々は、君と同じ人間なんだ。何故死んだからと危害を加える存在になる?何故人間を脅かす必要がある?』
「それは、自分は死んだのに生きてる人間は楽しそうで羨ましいから、とか」
『そういう卑屈な霊もいる。しかし、霊というのは、まず孤独なんだ。魂だけになり、他者や社会と隔絶されてしまうんだから。だから、助けて欲しくて現れるんだ』
「あの髪の毛を絡めて来たのもちょっと過激な助けてアピールだったと?」
解せぬ、と秀一は顔をしかめた。
『基本的には、と言った。助けて貰うというのはつまり、君のような人間が現れて救ってくれるーー憑依させてくれる、という事だが、長年それを待つ間にいつ間にか狂ってしまうのさ。
いいか、もう一度言う。霊は、元々は人間だ。人間だってずっと孤独にさらされたら狂うだろ』
「……」
『君と同じ人間なんだよ。君が孤独に苛まれたことがあるか知らないけど』
孤独。学校に友達がいない秀一にはその辛さがよくわかる。
『狂った存在が何をするか。相手の意思を無視してでも、無理やりにでも孤独を埋める』
要するに幽霊は、幽霊だから襲ってきたのではない、という話なのだろう。
「じゃあどうしたら良い?彼女の話し相手になれば良かった?友達になれば救えた?」
少しだけ沈黙があった。
『霊の状態によるだろう。説得がきくものもいれば、力付くでわからせる必要があるものもきっといるよ。
……俺はね、天国に導いてやりたいんだよ、そういう不幸な霊を。俺自身がずっと鏡の中で孤独で苦しかったから。
それに、人を救うことはずっと俺がやりたかったことでもある』
彼の言葉は真摯だった。
あの鋭く真っ直ぐで竹を割ったような眼差しを思い出す。
出逢ったばかり。しかも幽霊だというのに、彼の言葉に秀一は揺れた。
「ーーそんな事、出来るの?」
『……やってみなくちゃわからないだろ』
それは秀一の好むフレーズだ。
彼のレクチャーは、救助隊の『誰かいますかー!』という声に遮られる。
『タイムアップだな。説明は後で。まあ、急ぐ必要はない。
俺と君はこれからずっと、一緒なんだから』
体内から聴こえる声は、ハッキリとそう言った。
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