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第20話
『まず一つ。霊体を取り入れたことにより、君は霊感が強くなった。元々体質的に霊感があったわけだが、よりハッキリ霊が見えるようになっただろうし、霊の声も聴こえるだろう』
「いや、僕はあの日まで霊なんか見たことなかった。霊感なんてない」
だからオカルトを信じていなかったわけで。
『霊と人間には相性、波長がある。見えるか、憑依出来るか。だから、君は相性のいい霊に逢ってこなかっただけだよ。
人間同士だってそうだろ。誰とでもセックスし気持ちいいわけではない。その点、俺と君は』
「エッチなことを言うなッ」
恥ずかしさでいっぱいになる秀一だ。
大体、霊感が増しても恐怖体験が増えるだけでは?
そんなものは配信のタネにこそなれ、個人的にはなんの得もない。
『その二。君は俺の力を得たから、俺が体内にいる状態なら常人の二倍の身体能力を発揮できる』
「元々の運動神経がゼロだから、二倍にしてやっと普通じゃない?」
あまり期待は出来ない。
その力を活かして何をする?
引っ越し屋のバイト?
『その三。俺という夜のバディを得て、毎晩最高の絶頂が味わえる』
「ッ!……」
指折り数えながら語る奨に向かって、怒りが頂点に達した秀一はテレビのリモコンを投げた。
その顔は真っ赤で羞恥に身体が震えている。
時は遡るーー
廃校舎からの脱出した日、救助隊によりどこも怪我がないのを確認された秀一は警察の取り調べを受けてから帰宅。
疲れ果てて泥のように寝て、起きたら起きたで両親の国際電話、担任からの電話で油を絞られヘトヘトになったわけだが、その後にーー更なる試練が待っていた。
『腹が減った』
奨がそう言い出したのだ。
体内にいるんだから、秀一の生命エネルギーの恩恵を受けたりしてるんじゃないのか。
首を傾げる秀一。
そも、霊って腹が減るの?
『磁場から離れると霊体エネルギーを消耗するんだ』
「じゃあ鏡の中にお帰りよ。磁場場所なんでしょ。ほらほら」
『鬼か。あんな暗くて冷たくて寂しい場所に、俺に帰れと言うのか。俺を追い出したいのか?』
「まだ七日間経たないよね。クーリングオフでお願いします」
『どこに返品する気だよ。なあ、
意地悪はやめてくれ、腹が減ったんだ』
確かに秀一はちょっと彼をからかう言い方をした。
しかし、鏡の中の孤独を訴える時の奨を可哀想だな…とも思う。
「わかったよ。で、何をどう食べるの?
ペットショップに霊体用フードとかあるかな。幽霊まっしぐら、みたいな」
ペットの餌やり感覚で話していると、奨が体内から出てきて実体化する。
この時、秀一はベッドの上に寝そべっていた。よって実体化した奨は秀一に覆い被さるような形で現れたのである。
「あッ……」
改めて見ると、奨は容姿端麗としか形容出来ない見た目であった。
その眩いばかりのイケメンが秀一を見下ろしている。
『食べていいか』
「へ」
秀一が何か言う暇はなかった。唇を塞がれてしまったから。
「んーー!」
奨の整った顔が上から降りて近付いてきた、と思った矢先だ。
彼の唇が、秀一の唇に重なった。
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