27 / 117
第27話
謹慎中、秀一はYouTubeの配信を毎日続けた。
こういうものは定期的に配信しないと人気が落ちてしまう。
廃校舎での出来事は結局映像に何も残っていなかった。
警察や救急隊が来た事実も知れ渡ってはいない。
リスナーたちはガッカリした者も多く、死ななかったなら金返せなど酷いコメントまでついた。
だが、安堵する者、YouTuberシュウの無事を喜ぶリスナーだっていた。
あの時は香典を叫ぶ声に、マイナスオーラにやられてみんなから嫌われているように感じた。
人間は不思議なもので、何十人に好かれていても、たった一人嫌いだという人が現れると落ち込むものだ。それが全員の声のように感じてしまったりする。
秀一のような自己肯定感の低い人間は特に。
しかし、冷静になってみればそれは、自身の弱さが産み出す思い込みであったりするのだ。
秀一がやってきたことへの評価は存在する、ちゃんと。
『これがYouTube、というものか。君が撮った映像がテレビみたいに流れているんだな』
動画編集を眺めて奨はそんな風に呟いた。
『俺が生きてる時にはこんなものはなかったよ』
「奨さんが生きてたのは江戸時代?」
『それならチョンマゲ結ってるだろ、着物だろ、サムライだろ。教師だと言ったじゃないか』
「はいはい、エロ教師ね」
『食事だ食事』
秀一はオカルトの噂話を独自に研究した結果を配信する。
地味な内容だが、元々『真夜中パーティ』は秀一が引きこもりになった際に始めたチャンネルだ。
部屋でも出来る内容がメインである。生配信の方が稀なのだ。
あれから生配信は行っていない。
『それにしても、こんなことが出来るシュウは凄いな』
手放しに褒めてくる奨。秀一はふるふると首を振り赤くなる。
「詳しくない素人でも簡単に撮影編集が出来る機材があるからね。僕が凄い訳じゃないよ…
今なら小学生だって出来るんじゃないかな?」
『そんな時代が来るとはね』
「ところで、奨さんはなんで僕を秀一、じゃなくてシュウ……YouTuber名で呼ぶの?」
別にどう呼ばれても構わないが気になって。
『響きが可愛いから』
「聞くんじゃなかった」
『訂正しよう。可愛い秀一には可愛い名前が似合う』
「聞いてないよ?そこまで」
呆れた声を出すが、最近は可愛いと言われて悪い気はしなくなっていた。奨が褒めているのには変わりないのだから。
ただ恥ずかしいから、嬉しそうな様子は決して見せない秀一である。
「YouTubeそんなに面白い?」
『面白いな。テレビよりずっと細かいジャンルがあるし、好きなものが観れる。素人からプロまで色々な人間が配信をしているのも面白い』
実体化した奨は、椅子に座りディスプレイを眺めている秀一の後ろにいるのだが、秀一の首に腕を回してくっついている。
「なんでそんなにくっつくの?」
『駄目か』
「駄目ではないけど」
『じゃあいいだろう。中にいるよりこの方が心地好いんだ』
べたべた大の男が纏わりつくのはいかがなものか。
正直重たいし邪魔だ。
体内で大人しくしていたら良いのに。
ともだちにシェアしよう!