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第28話
「そう言えばこの歌い手さん、好きだったんだけど……凄くいい歌を沢山残して人気もあったんだけど、自殺しちゃったんだよな」
『歌い手、とはなんだ?』
YouTubeを知らない奨は歌い手も知らないようだ。
「ええと……奨さんに伝わる言葉ならシンガーソングライターが近いかな?既存の歌を歌う人もいるけど。歌を歌ってネットに投稿してる人のこと」
『へえ…素人のど自慢大会?』
「大会ってわけじゃ…いや、ランキングはあるけど。再生数とかコメント数とか」
『その人気絶頂の歌い手が自殺したのか?』
「そう。病んだ歌ばかり作ってたから心配してたんだけど……。聴いてよ、この歌。これ、彼女が自殺する直前のだよ」
秀一は彼女が最期に遺した歌を再生して奨に聴かせた。
映像に歌い手は映らない。どこかのイラストレーターが描いたイメージ映像が流れる。
凛、と空気を震わせるみたいな高い声。それがとてもふわっと優しい広がりを見せる。
歌声で辺りを包むような。
夢なんてひとつもない
生まれてこなければよかった
軋んだ毎日に吐き気がする
死にたい死ねない死のう死ぬなら
あたしは跳ぶ
忘れてほしいから
背中に羽根はなくとも
逃げられるよ
なにがこようと
掴まえられないよ
掌が太陽を掴むなら
聴き終わると、奨はふむ、と頷いた。
『可愛い声だな。しかし秀一の声の方が可愛い』
「は?!」
『秀一が歌ったらもっと人気が出るのでは』
「ば、馬鹿言わないで!」
奨は時々こういう事を言うので、秀一は困惑する。
秀一を気に入っている、というレベルではない。憑依しているから離れられないのだが、憑依していなかったとしても秀一にべったりとくっついているのではないか。
奨は秀一の動揺をよそに、何か考えるように視線を漂わせる。
『ん?……知ってる。俺はこの歌を知っている』
「え?この歌がアップされたのは2ヶ月前だよ。奨さんは鏡の中にいたんじゃ」
奨は答えずに質問をしてきた。
『……シュウは、この歌に共感するのか?』
「うん、……僕も死にたかったから。
僕、こんな女の子みたいな顔だからさ、学校では苛められているんだ。
もう死んでやる!と思ったこと、何度もある」
『……』
「学校の屋上の柵に掴まって下を眺めた時、ここから飛んだら楽になれるんだーって。
死ねなかったけどね。足が震えて、歯の根が合わなくて…。
自殺ってハードル高い。どんなに辛くても、僕には出来なかった」
それはまるで、自殺した歌い手が凄い、とでもいうような口振り。
すると、奨がスッと秀一から離れた。そのまま霧になり、体内へと隠れてしまう。
秀一の下腹が重たくなった。
秀一はハッとする。
そうだ。彼は幽霊だ。恐らく死にたくて死んだ訳ではない。
どう見ても彼は容姿から30代だ。人生に未練があったに違いない。
デリカシーがない事を言ってしまった。生きたくても生きられなかった人の前で死にたい、なんて。
唇を噛む秀一。
「奨さん、ごめーー」
が、謝りかけた秀一の脳内に響いた声は存外元気だった。
『秀一、出掛けよう』
「え?」
『そろそろ活動を始めようじゃないか、バディとしての』
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