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第34話
『その程度か』
黒霧が喉笛あたりに集中して濃くなり、奨をガードする。爪はその壁に弾かれた。
『やるじゃない。でもこれならどうかしら!』
爪は十本ある。Amyはそれを一気に伸ばし、四方八方から奨を狙う。先ほどガードする際に奨はその部位の霧の濃度を高めた。つまり、逆に濃度が薄ければガード出来ないかもしれない。
恐らくだが、全身を濃い濃度の霧で護ることは出来ないのだ。
可能なら最初からそうしているはずだから。
爪のスピードが尋常ではない。四方八方から同時の攻撃とならば、奨は貫かれてしまうのではないか。
秀一は奨を信じている。自信がなければ彼は闘いに持ち込んだりはしないはずだ。
しかし、こんな光景を見せられたらハラハラせずにはいられない。
実験で全てが試せたわけではなかった。重大なダメージを負えば霊体はどうなるか。二度目の死を迎えてしまうのではないかーー
祈るように両手を合わせてきつく目を閉じる秀一。
次の瞬間、起きたこと。
Amyの身体が足元をすくわれたように転び、地面に横倒しになった。
爪はAmyに繋がっているのだから必然、攻撃の軌道から逸れて奨には届かずあらぬ方向に向かって空を切る。
Amyの足首に、いつのまにか黒霧が巻き付いている。
彼女が攻撃に集中している間に黒霧を地面に這わせ彼女を拘束したのだ。
つまり、奨が派手に黒霧を纏って見せたのはこのためだったのだ。
『そろそろ遊びは終わりにするか。俺を大好きなシュウが心配しすぎて倒れたら困るし』
Amyがよろよろ起き上がる。
奨は彼女を見下ろしながら言い放つ。
『……なあ、Amy。本当に嫌われて棄てられたのか?あんたは。
何故結婚したくないと言ったのか、ちゃんと聞いたのか?』
『……聞いてないけど、そんなの、あたしを好きじゃなかったからに決まってるでしょ』
『事情を聞く限り、俺にはあまりそうは思えなかったがな』
『……じゃあ、なんでなのよ』
Amyはぐっと唇を噛み締めている。
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