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第35話

Amyは奨の言葉に強く動揺を示した。 人は、自分が間違っていると指摘されると揺らぐ。 彼に拒絶され、嫌われたと考えたからAmyは飛び降り自殺を敢行したわけだ。しかし、それがもし間違いであるならーー Amyが激昂したのも、奨の指摘にどこか自分でも思うところ、感じることがあったからだろう。 ぐっと唇を噛み締めて渋い顔つきをしている。 『他人の気持ちや考えを、いくら自分だけでこねくり回しても歪むだけだ。それは、あくまで自分が見ている、解釈した他人であるに過ぎない。 他人は心の内を全て露にするとも限らない。そんなものを元に、更に自己解釈をしても正解は遠いのは当たり前ではないか?』 奨はAmyを責めているわけではなかった。ただ、他人を解釈するのは難しいのだ、ということを伝えている。 彼の話に秀一も思い当たる部分がある。相手はきっとこう考えていると勝手に決めつけ、思い込んでしまうことが。 では、どうしたらいいか。 『聞き出すのが一番なんだ。他人に心を開かせ、その本音を話させる』 『シュウ、あの男に話を聞いてこい。彼の本音を。彼女の言葉も、俺の言葉も彼には聴こえない。君にしか出来ない』 「僕が?」 それは確かに奨が言う通りだが、彼と秀一は赤の他人である。そんな込み入った話が聞けるのだろうか。そんなーー重大な責務を果たせるのだろうか。 『Amyは歌い手で、シュウはYouTubeに動画をあげているんだろ?何か接点があったように装えないか?』 「そうか…」 確かに難しい事だ。しかし奨のアイデアは使えそうである。 出来ないと思ったら出来ないし、やれないとやらなかったらゼロ。 やれる、やるんだ。 すると、Amyがなんとガバッと秀一に頭を下げた。 『あたしからもお願い!』 『……さっきはごめんなさい、カッとなっちゃって。 彼に、友基に聞いてみて欲しい。あたしは、彼はあたしを愛してなかったんだと思った。 ただの幼馴染みでしかなかったんだと。でもそれが違って、他に結婚を断る理由があったならーーあたしは勝手に絶望しただけになる』 Amyは頭を冷やして随分冷静になった様子だ。バトルをしたのがむしろ発散、毒抜きになった。 また、霊は孤独だ。鬱屈していてもおかしくない。 そして、奨の言葉がきっと彼女に響いたのだ。 『あたし、彼への気持ちを最後に遺した。彼は気付いてくれなかったけど。それがあたしの精一杯』 伝えられない想いについて、秀一はわかる気がした。 秀一自身も今、奨に対して複雑な気持ちを抱いているがつたえきれていない。 秀一は考える。ふと、Amyの言葉をきっかけにバラバラの糸が繋がった気がした。 ーーもし、それが正しければ。

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