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第36話
秀一は作戦を考える。知らない間柄でも、本音を語らせるには。
ーー心を開かせるには。
奨がやったような事が自分にも可能だろうか。
「考えました。上手くいくかわからないけど」
『やってみろ、失敗を恐れるな』
奨の言葉は秀一の背中を押してくれる。
カメラを構えたまま秀一はコンビニ店員に近付く。
彼のフルネームは斎藤友基(さいとう ゆうき)だとAmyから聞いていた。
「すみません、ちょっといいですか。今、生配信中なんですけど」
友基はハンディカメラを持った秀一に顔をしかめる。
「なんですか…勝手に撮って」
不機嫌が滲む声だ。
「あなた、斉藤友基さんですよね」
「なんで俺の名前を?」
「実は僕、YouTuberをやってます。その関係で生前のAmyさんと親交がありまして」
「えっ!」
あからさまに友基の反応が変わった。親交があったというのは秀一の口から出任せ、嘘八百なのだが完全に騙されたようである。
「Amyさんは……残念でしたね。あんな才能ある人が。まだまだこれから沢山の素敵な歌が作れたろうに。お悔やみ申し上げます」
「亜ーーAmyは……俺の事をなんと?」
「幼馴染み、と聞いています」
幽霊から聞いたなんて友基は思いもしないだろう。正しい情報なのだから、友基は秀一の話を信じるに至る。
「彼女はなんて言ってたんですか、いや、その前にカメラ、止めて下さい。これネットに流れてるんですよね」
秀一は撮影をストップさせるふりをする。元々生配信はしていなかった。
「じゃあ、俺と彼女が同じ孤児院出身で同棲してたのもご存知なんですね」
亜弥はAmyの本名だ。松浦亜弥(まつうら あみ)。幼馴染みである友基は彼女を本名で呼んでいたのだろう。
「取材の時に彼女は何を話したんですか?映像とかがあるなら、見せて欲しいです」
『友基……』
身を乗り出して秀一に詰め寄る友基の様子にAmyの瞳が揺れている。
「友基さん、詳しい話は僕の家でしませんか?実はすぐそこなんです。これからバイトなんですよね?」
制服を見れば休憩時間なのは明らかだ。
見知らぬ人間の誘いに友基は躊躇いを見せたが、自殺した幼馴染みが絡んでいるとなればやはり気になるのだろう。
秀一から住所を聞いた友基はバイトが終わる時間には行くと言った。
**
『じゃ、後で友基と一緒にあなたの家に行くわ。その……上手く言えないけど、ありがとう』
Amyは戦闘時とはまるで違ったしおらしい態度だった。友基と共に去っていく。
「なんだか、普通の女子高生みたいだ」
その後ろ姿に秀一が呟く。
『普通の女子高生だよ。人気の歌い手だろうとアイドルだろうと。ファンから見れば特別な存在かもしれないがね。
君と同じ、剥き出しの傷つきやすい心を抱えている人間だ』
彼女は霊だ。しかし奨は度々こういう言い方をする。
霊は元々は人間で、人間と大差ないのだと。
実体化した奨と接しているうちに秀一もそれは理解してきたが、人気の歌い手が自分と同じと言われてもピンとは来なかった。
雲の上の存在みたいに思っていたから。
しかし、話して接してみればわかる。奨が正しい事が。
Amyは人気を得て沢山のファンがいたが、ただの女子高生だった。
ファンは所詮、ファンでしかない。ネットにより距離は近いが、Amyが心を開いて話したわけではなかった。
互いが近すぎて、互いを見失うのがネットなのだろうか。
Amyの本当に親しい人間は友基だけだった、つまり孤独だったのかもしれない。
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