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第38話
秀一は独りになりたかった。
食事の度裸を見られているし、毎日の風呂の時も傍にいるから慣れっこと言えば慣れっこだが。
大体、憑依生活が始まってから独りになれるのはトイレの時間ぐらいなのだ。
奨は常に傍にいる。
『そう怒るなよ』
トイレに関しても奨は「気にしない、一緒に入る」などと言った。
秀一が絶対に嫌だ!見られたくない、もし見たら自殺する!とまで怒り狂って喚いたからついてこない約束になっただけだが。
『お腹がすいて、本当に倒れそうだ……』
「知らない!あんなエッチな事言って。奨さんはご飯がほしいんじゃなくただエロいことがしたいだけだろ!
僕じゃなくても、誰でもいいんだろ!」
『なんでそうなる?
Amyもそうだが、相手が言ってない事まで決めつけて落ち込んだり怒ったりするのは良くないぞ』
そう言われると秀一は言葉に詰まった。
奨の指摘は正しい。秀一はあの時にAmyが怒った気持ちがわかった。人は正論で突かれると怒りたくなるのだ。
ツンとそっぽを向いて秀一は脱衣所へ。奨を無視して服を脱ぎ出す。
『シュウ』
「あっちに行って。独りでシャワーが浴びたい。いやらしいことを言った奨さんはご飯抜きだからね?」
秀一はチラッと奨を見る。
きっといつもの掛け合い漫才みたいなやり取りが始まると思っていた。しかし、奨はおとなしく引き下がる。
『……わかった』
奨の声は沈んでいる。
こうなると、なんだか秀一が意地悪をしたみたいでとても気まずい。
奨は脱衣所に入らず廊下で待っているようなので、秀一はさっさとシャワーを浴びてしまうことにした。
熱い湯が肌に当たると心地よい。
汗と疲れが流れ落ちていく。
身体を洗いながら、秀一は自身の胸元にそっと手で触れる。
ピンクの柔らかな蕾。筋肉が少ない薄い胸板は、男らしさに欠ける貧弱な身体だ。
こんな身体のどこに欲情するのだ?
確かに奨は時々やりすぎる。
調子に乗ると子供っぽさが全面に出るからだ。
しかし普段は大人だし紳士であり優しい。
先程の言葉も元教師らしいきちんとした物言いだった。
こんな自分を狂おしいほど求め、大切にしてくれる奨に、怒る必要などあったのだろうか。
エッチな言い方をされ、恥ずかしく嫌だったけど、本当はいやらしいことをしたかった。
身体はこんなにも彼をーー奨を欲している。
秀一は流れる湯に身を委ねながら自身を抱き締めた。
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