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第39話

汗を流してさっぱりすると、秀一のお腹がぐう、と鳴る。 ご飯食べなくちゃ……と考え、お腹がすいたと言っていた奨を思い出す。 まさか倒れてはいないだろうな…? 身体を拭いてスウェット上下に着替え、濡れた髪を拭きながら廊下に出ると奨が体育座りをして項垂れている。 「奨さん?!」 慌てて身を屈めて覗き込む。 『ああ、シャワーから出たのか。待っていたよ』 奨は顔を上げた。生きている。 いや、幽霊だから死んでいるが。 「びっくりさせないで」 『すまないな。座っていただけだよ』 「なら、いいけど…」 心配して損した、とは思わない。さっきは強く当たりすぎたと悔いていたから。しかし謝る言葉は喉まで出かかり、止まってしまう。 暫しの沈黙。 口火を切ったのは奨の方だった。 『秀一。一緒に来てくれないか』 「……何?」 秀一はバスタオルでふわふわ髪をふきふきしながら奨についていく。彼が向かっているのはキッチンのようだ。 『ちょっと椅子に座っていてくれ』 秀一は言われた通りに、食事が出来るダイニングテーブルに備え付けの椅子に腰かけた。 奨は冷蔵庫に向かった。扉を開いていくつかの食材を取り出す様が見える。まさか。 「料理、するの?」 霊は人間の食べ物からはエネルギーを補給出来ない、と奨から聞いている。 霊の食べ物は人間の生命エネルギーだからだ。そのために秀一は毎日せっせとエッチな事をされ、彼の食事である精液を排出しているわけで。 彼が料理を作った所で彼自身は食べられないのだが… 『冷飯とハム、残り野菜があった。……卵もあるな。炒飯、オムライスなら作れるな』 食材を眺めてぶつぶつと呟いた奨は秀一に尋ねた。 『シュウ、炒飯とオムライス、どっちが食べたい?』 「……え、作ってくれるの?」 『腹へったと言っていただろ?さっき怒らせたお詫びだ』 そう。奨はお腹をすかせた秀一の為に料理を作る、と言ってるのである。 秀一は子供っぽくパッと目を輝かせる。 「嬉しい……!じゃあオムライス!オムライスがいい。僕、ケチャップライスを包んだオムライスが大好きなんだ!」 はしゃぐ秀一の様子に、奨はぐっと親指を立てる。任せろの意味だ。 「でも奨さんって料理出来るの?」 『腕が心配か?独り暮らしだったから、料理の腕は確かだぞ。まあ所謂男の料理というか、簡単なものしか作らなかったが』 「心配てわけじゃないけど…」 料理をする幽霊?なんだかおかしい。しかし、幽霊が料理しちゃいけない道理もルールもない。 『任せておけ。最高のオムライスを作る』 ウインクが様になる。秀一はイケメン料理人の腕を信じてみようと思った。

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