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第40話

奨は食材をまずよく水で洗った。それからニンジン、ピーマン、タマネギをまな板上で細かく包丁で刻んでいく。 「手際いいね。指、切らないでよ?」 『小さな怪我なら大丈夫さ』 それは実験済だ。かすり傷なら生命エネルギーですぐに治すことが可能である。 だが、そういう問題ではない。 怪我や傷には霊でも痛みを伴う。治ればいいというものではない。 秀一は、奨が痛みを感じるのが嫌だったのだ。 『心配症だな、シュウは。でも、俺の事を案じてくれてありがとう。嬉しいよ』 席の方を振り返る奨は笑顔だ。 さっきの些細な喧嘩はなんだったのだろう、と思えるほどの穏やかな空気に秀一も綻ぶ。 奨は料理を続けた。 『思い出したよ。クラスに、親が家で食事を作らないという生徒がいて…。小学校だから給食はあるわけだが、育ち盛りの子供が一日一食じゃもたないよな。たまにうちに呼んで、料理を作って食べさせていたんだ』 そういう家庭の子供のために、子供食堂などが救済処置として広まってはいるが、まだまだ全国的に数は少ない。 親を呼び出して注意をしても、子供が怒られたり更に酷い目にあうケースも多いのだ。 奨の料理をガツガツ嬉しそうに食べていた生徒は、元気にしているだろうか。 『彼はグリンピースが苦手だったよ』 「あ、わかる。僕もちょっと苦手。豆臭いんだもん」 小学生の子と同じものが嫌いなんて恥ずかしいが、秀一はペロリと舌を出す。 『俺は教師だが、好き嫌いが全部悪いとは思わない。勿論、身体の成長には色々な栄養が必要だから偏るのは良くない。だが、無理に嫌いなものから摂取しなくとも、他のものから取ればいいさ』 『食事は楽しむためのものでもあるんだからな』 好き嫌いを怒られると思ったかは、奨の言葉に秀一はホッとした。 「僕、奨さんのクラスの生徒になりたかったな。奨さんから色々教わる度にそう思うよ」 『……ありがとう』 彼は教師として、型にはまらぬタイプだったかもしれない。しかし、秀一はそんな彼にも魅力を感じた。 生前の彼に逢えなかった事を少しだけ悔やんだ。

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