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第41話
奨の料理の手際はいい。
卵を三つボウルに割る。片手でパカッと卵を割る様はまるで料理人みたいだ。
『フライパンを煙が出るぐらいに温めて……綺麗なオムレツを作るのはここがポイントだぞ』
「なんか料理の先生みたい」
思わず、くすりと笑う秀一。
熱したフライパンにバターを落として、具材を炒める。それを一度取り出してから先にケチャップを投入、水分を飛ばしたら具材、冷やご飯の順に入れてケチャップライスが出来上がった。
いい匂いがキッチンに立ち込めて食欲をそそった。
秀一の母親は仕事が多忙で、お手伝いさんが作る料理を食べる事が多かった。
お手伝いさんはプロだから、当然料理は上手いしレパートリーも豊富、栄養バランスも取れている。
しかし秀一は、たまに母親が作ってくれるベタっとしたチャーハンやインスタントラーメンが好きだ。
誰かが自分の為に何かを作ってくれる。
誰かが自分の為に何かをしてくれる。
それが、嬉しかった。
今もーー同じだ。
『はい、出来た』
目の前に美味しそうなオムライスが置かれた。
ほかほかと湯気を立てている。
しかし秀一は料理に手をつけない。
『どうした?シュウ』
「……」
不意に涙が湧き出でて。
秀一の瞳は透明な雫でいっぱいになる。
『シュウ?!』
「ッ……ごめんなさい。僕は。最低だ」
ぽた、ぽた。黄色くて木の葉型のオムライスの上に涙が溢れる。
「奨さんは、僕がご飯をあげなきゃ食べられない。
それなのに、僕は奨さんにご飯をあげないって意地悪をした」
「そんな僕に、奨さんはご飯を作ってくれてーー」
胸が張り裂けそうだ。
ーー奨は優しい。優しすぎるほどに。
「エッチだってやじゃなかった。だけど、エッチがしたいなんて恥ずかしくて言えない。
奨さんに求められると、どうしても嫌って言っちゃう…」
「本当はもっと素直になりたい……。だけど、出来ないんだ!僕は、こんな自分が嫌いだッ!」
秀一の涙は止まらなかった。
溢れて溢れて、オムライスの上にまでポタポタと落ちてしまった。
ぐずぐずと泣きじゃくった。
『……』
奨が近付いてくる。横にしゃがんで、無言のまま秀一の頬に指先で触れる。そしてーー涙に濡れた頬に優しいキスをした。
唇で涙を拭う為に。
「……ッ…」
1つ、また1つ。奨は秀一の頬にキスを落とす。最後は目尻に優しく触れて…。
『泣くな。君の泣き顔は可愛いが、悲しい顔は見たくない』
「……」
『君は意地悪なんじゃない。素直になるのがきっと怖いんだ。
人というのは、ありのままの自分をさらけ出すのが怖いんだよ』
「何故?」
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