41 / 117

第41話

奨の料理の手際はいい。 卵を三つボウルに割る。片手でパカッと卵を割る様はまるで料理人みたいだ。 『フライパンを煙が出るぐらいに温めて……綺麗なオムレツを作るのはここがポイントだぞ』 「なんか料理の先生みたい」 思わず、くすりと笑う秀一。 熱したフライパンにバターを落として、具材を炒める。それを一度取り出してから先にケチャップを投入、水分を飛ばしたら具材、冷やご飯の順に入れてケチャップライスが出来上がった。 いい匂いがキッチンに立ち込めて食欲をそそった。 秀一の母親は仕事が多忙で、お手伝いさんが作る料理を食べる事が多かった。 お手伝いさんはプロだから、当然料理は上手いしレパートリーも豊富、栄養バランスも取れている。 しかし秀一は、たまに母親が作ってくれるベタっとしたチャーハンやインスタントラーメンが好きだ。 誰かが自分の為に何かを作ってくれる。 誰かが自分の為に何かをしてくれる。 それが、嬉しかった。 今もーー同じだ。 『はい、出来た』 目の前に美味しそうなオムライスが置かれた。 ほかほかと湯気を立てている。 しかし秀一は料理に手をつけない。 『どうした?シュウ』 「……」 不意に涙が湧き出でて。 秀一の瞳は透明な雫でいっぱいになる。 『シュウ?!』 「ッ……ごめんなさい。僕は。最低だ」 ぽた、ぽた。黄色くて木の葉型のオムライスの上に涙が溢れる。 「奨さんは、僕がご飯をあげなきゃ食べられない。 それなのに、僕は奨さんにご飯をあげないって意地悪をした」 「そんな僕に、奨さんはご飯を作ってくれてーー」 胸が張り裂けそうだ。 ーー奨は優しい。優しすぎるほどに。 「エッチだってやじゃなかった。だけど、エッチがしたいなんて恥ずかしくて言えない。 奨さんに求められると、どうしても嫌って言っちゃう…」 「本当はもっと素直になりたい……。だけど、出来ないんだ!僕は、こんな自分が嫌いだッ!」 秀一の涙は止まらなかった。 溢れて溢れて、オムライスの上にまでポタポタと落ちてしまった。 ぐずぐずと泣きじゃくった。 『……』 奨が近付いてくる。横にしゃがんで、無言のまま秀一の頬に指先で触れる。そしてーー涙に濡れた頬に優しいキスをした。 唇で涙を拭う為に。 「……ッ…」 1つ、また1つ。奨は秀一の頬にキスを落とす。最後は目尻に優しく触れて…。 『泣くな。君の泣き顔は可愛いが、悲しい顔は見たくない』 「……」 『君は意地悪なんじゃない。素直になるのがきっと怖いんだ。 人というのは、ありのままの自分をさらけ出すのが怖いんだよ』 「何故?」

ともだちにシェアしよう!