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第46話

「奨さん、聞いていい?」 彼の逞しい胸板の上に肌を寄せながら秀一は問う。 「奨さんのことが知りたいんだ」 こんなに傍にいて。片時も離れずにいて。 おまけに性的な行為を毎日のように繰り返しているのに、知らないことが沢山ある。 奨は秀一を抱き締める腕の力を強くした。 それは了承の意味だろう。   「……奨さんは生前、好きな人とかーー恋人っていたの?」 全てを知らなくてもいい。だけど、こんな風に肌を重ねあって生きていくなら彼の恋人関係は知りたかった。 ふう、と息を吐く奨。そしてポツリポツリと語りだした。 『恋人は居なかったが、好きな相手はいた。多分だが……両想いだった。 しかし、うまく伝える事が出来なかったんだ、お互いに』 その相手とはあの、まさか廃校舎に居た女の化け物ーー幽霊なのか? 二人は気持ちが通じあっていたが、伝えあう某かの事件が起きて死んでしまったとか… 霊は心残りがあると天国に行けない。奨にとっては彼女が、彼女にとっては奨が心残りだったのではと、秀一は考えたのだ。 『今も好きなのかと言われたら、わからない。あれから10年もの月日が過ぎていたからな。俺が死んで、あの鏡に囚われてから』 「10年前……」 人の死によって時は止まるが、想いは止まるのだろうか。 『多分…俺は君に惹かれてる。惹かれ始めているよ』 「……!」 誰からも言われた事がない言葉だ。 女の子みたいと苛められて、疎まれて。恋愛なんて無縁と思っていたのに。 こんなイケメンが秀一に惹かれると言ってくれるなんて。 秀一も自身の気持ちを振り返る。 あんなにも恥ずかしくて嫌だった行為がしたくなった。 食事という建前があるから大胆になれた。 彼とシたい。彼とするのが気持ちいい。あの時のように、熱くて硬い彼を体内に受け入れたい。 何より、自分だけが気持ち良くて絶頂を迎えるのが秀一は嫌だった。 奨は霊体であり、食事が生命エネルギー故、排泄をしない。 つまり精液がたまることはない。 鏡の前で秀一の中に入って来たのは彼自身、黒霧と化した彼の一部だ。 しかし、霊体の反応は限りなく生きている時のイメージを模倣する。それは本人が自身をそうイメージしているからだ。 つまり、奨の男性自身は勃起するし、汗をかいたりもする。 いつも奨は秀一を感じさせまくって食事を終えるが、そういう一方的な行為に、秀一は疑問を持ったのだ。 彼を感じさせたい。 彼もイかせたい。 初めての時のように。 気持ちを通じあわせ、一緒にエクスタシーに上り詰めたい、と。 「僕も……あなたに惹かれている。あなたが、いい……」 耳まで赤くなりながらも、秀一はちゃんと言葉にする。 お互い惹かれあうから、こんなにドキドキするんだ。 だから、抱かれたいんだ。 秀一は言い知れない幸せに包まれる。相手が霊だということは、今は考えないようにした。

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