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第47話

バイトが終わった友基が秀一の家にやってきたのは夜に差し掛かる頃。友基に憑依しているAmyも勿論一緒だ。尤も霊が見えない、声が聴こえない友基は独りで来たつもりだろう。 玄関先で友基を出迎えた秀一はペコリと頭を下げてスリッパを勧め、リビングへ案内した。 『へー、広くていい家に住んでるじゃん?親、金持ち?羨ましい。あたしもこんな家に産まれたかったな』 Amyはそんな風に言いながら、相変わらず友基にへばりついている。 ソファーに座った友基に秀一はお茶を出してから、話を切り出した。 「呼び出してすみません。外じゃゆっくり話せないと思って」 友基は出されたお茶を飲む。 「あなたはYouTuberなんですよね。お名前は、生駒さん」 「配信者名はシュウです。ホラー専門チャンネル、真夜中パーティを配信してます」 目を細める友基。 『真夜中パーティなんて聞いたことない』 Amyが呟いたが、大人気歌い手と比べられたら困る。 高校生の割には頑張っているというのに。 「それで、Amyについて聞きたいんですが。もしあなたがAmyの映像を保存しているなら見せて欲しい」 『映像なんかより、あたしそのものが此処にいるのに…』  身を乗り出す友基にAmyが不満げな声を漏らす。 「……友基さんは彼女が最後に遺した歌を覚えてますよね」 「勿論」 夢なんてひとつもない 生まれてこなければよかった 軋んだ毎日に吐き気がする 死にたい死ねない死のう死ぬなら あたしは跳ぶ 忘れてほしいから 背中に羽根はなくとも 逃げられるよ なにがこようと 掴まえられないよ 掌が太陽を掴むなら Amyが歌いだす。大人気の歌い手の生声だ。 安定した音程、適度なビブラート、澄んでいて雑じり気がない声質。 しっとりした歌声に秀一はうっとりした。 「あの、それで?あの歌がなんなんですか」 幽霊の歌声が聴こえない友基したら、ただ秀一が黙ったように見えたのだろう。 Amyが小さくため息をつく。 恐らく彼女はこの2ヶ月ずっと、何度も何度もこうして歌ってきたのだ。 いつか彼に聴こえると願って。いつか彼が気付いてくれると信じて。 歌に隠されたメッセージに。 「あなたのお名前、友基さん、ですよね」 「そうですけど」 「あの歌の歌詞をプリントアウトしたものです。 歌の文節の頭の文字を繋げて見て下さい」 秀一が差し出した紙とペンを友基は手に取った。一文字ずつ丸をつけて繋げていく。 ゆうきしあわせになつて 「あ……」 彼は気づいた。歌に隠されたメッセージに。 『……まさかあなたが気付くとはね。友基に気付いて欲しかったんだけど』 Amyがそう言うなら、これは偶然の言葉の羅列ではない。 『シュウ、よく気が付いたな……こんなのに』 Amyの話、友基の名前、自殺。それらが頭に入ってきた時に、秀一の中で全てが結び付いた。

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