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第52話

「動物園とかデートには子供っぽい?」 『いや、そんな事はない。俺も動物園に行きたい。ゴロゴロしたパンダを見に行きたい』 「奨さんがパンダみたいにゴロゴロして僕のベッドを独占したら困るんだけど?」 『むしろナマケモノだな、それは』 こんなイケメンなナマケモノがいてたまるか。秀一は奨の腕の中でクスクス笑う。 『しかし秀一、気付いてるか?』 「何?」 『俺幽霊だからチケットはいらないぞ』 「あ」 確かにそうだ。チケットは一枚余りそうであった。 *** 『服を買いに行かないか』 秀一は奨の顔を見つめる。 なんでそんな事を言い出したのかわからなかったから。 「え?」 『明日、折角だから新しい服で出掛けないか』 「動物園に?」 『だってデートなんだろ?』 そう言われたらそうだ。他人とお付き合いしたことないし、デートの経験がない秀一にはピント来なかったが。 『君はそんなに愛らしい顔立ちなのに地味な私服ばかりだ。勿体無い』 「またそんな…」 愛らしいとか可愛いとか、奨はすぐに秀一を褒めるが、秀一自身は自分の顔が好きではない。 奨は腰に手を当てニコニコしているが、秀一は乗り気になれない。 顔を逸らす。 「でも、か、買いにいくのやだ。苦手なんだ、お店の店員さんが話しかけたりしてくるの…」 容姿に自信がない秀一は、独りでこっそり服を選びたい。しかし店員は秀一が困っていると勘違いして寄ってくる。 断るのも一苦労だし、内心店員が「お前みたいな女々しい容姿の奴がカッコいい服を選びに来るな」とでも思っているんじゃと怖くなる。 YouTuberシュウである時は饒舌であるが、普段の秀一はシャイで口下手だ。 特に容姿に関わる話となれば余計に縮こまってしまうのだ。 Amyや友基と話す時は、YouTuberシュウであったから堂々と話すことが出来たが…。 俯く秀一。が、奨がその顎に手を添える。そして上向きにさせた。 『俺を見ろ』 「…ッ…」 奨の漆黒の瞳が真っ直ぐに秀一を見つめている。 『シュウは可愛い。もっと自信を持つべきだ。俺が言うことが信じられないか?』 「そう言う、わけじゃ」 眼差しに貫かれるみたいで。視線に犯されているようで。秀一の頬は真っ赤になる。 『服屋の店員が怖い?君は客なんだ、堂々としたらいい。それに似合う服だって沢山ある』 「そうかな」 奨に言われると、秀一は段々その気になってきた。 照れながら、戸惑いながらも。 そんな秀一の姿が奨の瞳に映っている。 『俺が傍にいる。君に似合う最高の服を選んでやるさ』 「……うん。ねえ、奨さん」 『ん?』 「キスして」 目を閉じる。 奨の唇がゆっくりと降りてきて、秀一の唇に触れた。 暖かくて柔らかくてーー愛しさに溢れるキス。 全身が蕩けそうだ。 秀一は手を伸ばして彼の肩口に触れる。奨の唇は、何もかもを説得する力を持っている。 強引な、強気な彼に振り回されながらそれを嫌だと言えない。 唇が離れると熱い息を吐いた。 キスにまだ慣れない秀一だ。 見上げると、奨はニヤニヤしている。こいつ、キスの効果がわかっているな! してやられたと思えば悔しい。 秀一はツンと横を向いた。

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