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第54話

『見ているから、順番に着てご覧?』 「うん」 秀一は下着になり、新品の服に袖を通す。鏡の中にいる自分の姿がとても新鮮だ。色々な組み合わせを試してみる。 『その組み合わせがいいな』 オフホワイトのサマーニット、それにチャコールグレーのハーフパンツを身に付けた秀一。 大胆に脚を出すファッション。膝上丈ハーフパンツなんて子供っぽいと、ずっと履いていなかったが…。 「脚出すの恥ずかしい」 『そうか?似合うよ』 「虫来るじゃん。足刺されるのやだよ」 『虫除けスプレーをしたら良いだろう。それにハーフパンツは何より、シュウの綺麗な脚に似合うよ』 「またいやらしい目でみてる?」 『バレたか?』 「もー!」 頬を膨らませる秀一。 「エロ虫に虫除けスプレー効くかな?」 『虫扱いはやめてくれ』 恥ずかしいからなんのかんのいいわけをしているだけの秀一である。 試着室の中で奨が実体化する。 奨は纏う黒霧を変化させる。 紺のテーラードジャケットと黒スキニーパンツというジャケパンスタイルになった。 インナーにはシンプルな白のカットソー。 長身イケメンの彼は、まるで男性アイドルのよう。 「わ…カッコよ…」 思わず声をあげる秀一。奨は霊体だが、鏡に映っている。いや、正確には秀一にはそう見えているだけなのかもしれない。 友基には奨の姿は見えなかった。外で実体化した際、他人から奨が見えているかは定かではない。 もしかしたら奨が見えるのは、同じ幽霊以外では秀一だけかもしれない。 「奨さんのこと見えるのは、僕だけなのかな」 ぽつりと呟く。 『……だったら困るか』 「そうじゃないけど」 むしろ、見られた方が困る局面が多い気がする。 でも時々、彼は自分だけに見える幻覚なのではと不安になる。 奨が、秀一の肩に手を添えて自分の方に抱き寄せた。 『俺はここにいるよ』 「……うん」 そうだ。たとえ他人に見えなかろうが関係ない。 秀一には彼が見えている。 『シュウ、眼鏡を取ってみてくれないか』 「……ん?こう?」 眼鏡を外してしまえば、秀一はぼんやりとしか見えなくなる。 『……ちょっとこう前髪分けようか』 奨の武骨な指先が秀一のおでこに触れる。ふわふわの髪が左右に分けられた。 そんな触れられ方にも秀一の胸はときめいた。 おでこを出すだけで随分雰囲気は変わる。奨はその姿を見て満足そうに呟いた。 『可愛い』 「……」 結局それか、と思いながらも秀一は嬉しくなってしまった。 今までしなかったお洒落が楽しく感じる。 「……う、嬉しくなんかないから」 『そう思ったから言ったまでだ、構わない』 秀一の強がりは奨に意味をなさない。むしろ余裕の笑みを返された。見透かされている、バレている。 奨は上体を折り、背の低い秀一の額に横からキスを落とす。 「はぅ…」 すぐに秀一の身体がびくんと反応する。が、ここは試着室だ。こんな所で……

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