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第56話
ヘナヘナ座り込んでしまう秀一。
触手は黒霧に変わり、いつものように秀一の精液や汗を吸い取っていく。
「お客様ー?どうですかー?サイズは合いますかー?」
「え?!あ、はい!大丈夫です、あの、すぐ出ますから!」
試着室の外から店員の声がした。慌てて衣服を身につける秀一。
奨は秀一の体内に引っ込んだ。
まるで厄介事は任せたとでも言うように。
「もう、奨さんたら!覚えてろ!」
そんな風に唇を噛みながら、強引な奨が嫌ではない秀一である。
奨が似合うと言ってくれた新しい洋服を購入すると秀一はアパレルショップを後にした。
「外でするなんて…あり得ない。もう、暫く飯抜き」
『またエネルギー不足で倒れるぞ?それでもいいのか?』
「倒れて干物になっちゃえば?」
『幽霊の干物とかないだろ…』
「じゃあ幽霊の佃煮」
『それはただの飯の友だ』
そんなやり取りをしつつ、秀一の足取りは軽かった。
***
動物園デート。朝から秀一は楽しみで仕方なくずっとそわそわしっぱなしだ。
お天気は快晴、じめじめした暑さはなくカラッとした晴れ。
新しい服を着て秀一と奨は腕を組み出掛ける。
電車を乗り継ぎ、開園前の動物園にたどり着いた。
夏休みのせいか、親子連れ、カップル、グループ、沢山の人たちがゲートの前で動物たちに逢えるを心待にしている。
「子供の頃に来た時より綺麗になったかも」
ゲートの形などは変わらないし、看板に描かれたライオンと虎のキャラクターも同じだが、綺麗に塗り直されている。
秀一は記憶を辿る。あれは小学校に入って初めての遠足。おやつにお弁当、水筒をリュックに入れてワクワクしながらこのゲートが開くのを待っていた。
引率の先生がヒヨコの大群みたいな生徒たちにあわあわしていた様子を覚えている。
「そうだ…ライオン。真っ白な……凄く可愛いのがいた。あれは、ホワイトライオンの赤ちゃんだ」
その年、ホワイトライオンの赤ちゃんが産まれたてであった。
真っ白なふわふわの毛、まだ小さくてまるで猫みたいなライオンの赤ちゃんの姿が脳裏に甦る。
飼育員さんが傍についてのだっこ撮影会があり、生徒たちは一人一人ライオンをだっこして記念撮影をした。
勿論危険がないよう、ライオンの爪や牙は安全が管理されていた。
見た目は猫みたいなのに匂いがとても獣臭くて驚いて。でも、撫でると気持ち良さそうにしていた記憶。
「だっこだよ!僕、だっこしたんだ、ライオンの赤ちゃん」
『へえ、ホワイトライオンか、珍しいな』
「うん、もしかしたら僕が抱いたあの子、まだいるかも?おっきくなったろうな、逢いたいな」
ライオンの寿命は16年ほどだから、まだ生きている可能性が高いし大人になっているかもしれない。
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