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第57話

二人は順路に沿って動物園をまわる。最初に訪れたのは猿山だ。 沢山の日本猿たちが木やロープにぶら下がったり、自由気ままに過ごしている。 「あ、赤ちゃんだ、可愛い」 小さな子猿を胸にぶら下げながら歩いているのはきっと母猿だ。 『人間の親子みたいだな』 「あのべったりくっついてる猿、奨さんみたい」 『おい、どうして俺が猿なんだ』 「よく僕の背中にくっついてるじゃない…」 『もう少しカッコいい動物にたとえてくれないか?』 猿の場合、べったりくっついているのは背中のノミを取ってやっているだけだ。 奨は不服そうである。 次に二人が向かったのは、象、キリンなどの大型動物がいるエリアだ。 「あっ見て見て奨さん!キリンのエサやりが出来るみたい」 売っていたのはキリンの餌だ。スティック状になったセロリ、リンゴ、にんじんがカップに入っていた。一個100円。 『噛まれたりしないのか?』 「大丈夫、エサやり慣れてるし」 『?!…まさか俺の事じゃないよね?』 奨を無視して料金箱にお金を入れてカップを手にする秀一。 キリンは長い四本の脚を優雅にクロスさせながら柵の中のエリアを歩いている。 秀一が餌を差し出すと気付いたようで、ゆっくり長い首をもたげながら歩いてきた。 「うわ、大きい!」 キリンが首を伸ばして近付いてくる。距離が縮まると眠そうな目を縁取る睫毛がとても長いのがよくわかる。 にんじんを差し出すと、キリンは長い舌をベロンと伸ばしてきた。 「わあ?!」 にんじんを奪われた。しかもその際に指をたっぷりと舐められて唾液がべっとり付着した。 ねとー、と糸をひく唾液。キリンは素知らぬ顔でにんじんをモシャモシャ噛み砕きながら去っていく。 『あはは!たっぷり舐められたな、シュウ!エサやりは得意じゃなかったのか?』 さっきは言われっぱなしだった奨が秀一に突っ込む。 「べ、別にこのぐらい…うう、洗いにいく!」 半べそでトイレの洗面所に走る秀一を、奨は体内から眺めつつニヤニヤした。 キリンのコーナーの隣には建物があり、ふれあい広場、という看板が出ている。 「うさぎやモルモットが触れる!」 もふもふした毛並みのうさぎ、モルモットをネットの写真で眺める度、秀一はその手触りを想像しては憧れを深めていた。 『また舐められて涎だらけになっても知らないぞ』 「いいよ!うさぎは可愛いもん!」 係員に追加料金を払って手を洗ってから秀一は建物に入った。 囲まれた柵内に長椅子がある。座っていると係員がバスケットに入れたうさぎとモルモットを連れてきてくれた。 うさぎは真っ白で目が赤い。モルモットは茶、黒、白が入り交じった模様。 共通しているのはとてもおとなしい、という事。 秀一の膝は二匹が乗るといっぱいになる。 「可愛い…!!」 もふもふのフワフワが二匹も、自身の膝にいる。夢のようだ。 秀一はそっとうさぎの背を撫でる。うさぎはぴくり、と震えたが、嫌がることなくおとなしく鼻をひくひくとさせた。 『大人しいんだな。俺も撫でてみよう』 奨は秀一の膝の上のモルモットを撫でる。やはりおとなしいのは変わりないが、こちらはキュッと小さな可愛い鳴き声をあげた。 『……』 「どうしたの?奨さん」 『いや、シュウの膝の上が気持ち良さそうだと思った』 「?!」 いきなり何を言い出すかと言えば。今秀一の膝にいるのは動物なのだが?! 『帰ったら膝枕をしてくれないか、シュウ』 「え…」 『こいつらだけシュウの膝を満喫するのはずるいだろ』 まさか動物に嫉妬している? 秀一はぷっと吹き出した。 「わかった、してあげる」 奨はたまに子供じみたことを言う。 Amyと戦ったり説得をした際はあんなに大人びてカッコ良かったが…。 不思議なギャップに秀一は惹かれた。 ジェットコースターみたいに急速に、二人は互いを特別に意識しあっていくーー。

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