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第58話
そう言えばまだライオンの姿を見ていない。秀一が抱っこしたライオンはいるのだろうか。
『係員さんに聞いてみたらどうだ?』
奨のアドバイスに頷く秀一。だが、係員のおじさんの返答は残念なものであった。
「自分は猛獣担当じゃないからよく覚えてないけど、確かにあの時、ホワイトライオンの赤ちゃんがいましたねえ。でもその後、別の動物園に移動したんじゃなかったかなあ?」
どうして移動したんだろう?
「えっとそれは、子供には説明しにくいな」
『嗚呼そうか。続きは俺が説明するよ、シュウ』
奨の声が聴こえたので、秀一は質問を打ち切った。
『動物園の動物というのは、昔はアフリカから捕まえて来ていた。ライオン、ゾウなどは日本にいる動物ではない。しかしそれから動物愛護の声が強くなってね。今いる動物たちは、動物園で交配した子供たちなんだ』
『ただ、同じ動物園で交配を続けると近親交配になる。それを避けるため、動物園同士が動物を産まれた交換しているんだ』
流石、奨は教師である。その活動は奨が現役の頃からあった流れのようだ。
『しかし産まれる子供の数は減っているし、そもそも動物園自体への非難の声も高まっているから、動物園はどんどん減っているんだ……』
「そんな……」
今日は奨と動物園に来て珍しい動物を沢山見て、触れて秀一はとても楽しかった。
だがそんな動物園が段々失くなっていくと聞き、寂しい気持ちになる。
人目を避けて実体化した奨は秀一の肩にそっと手を置く。
『動物を護る活動は世界的に続いている。見られる機会は減るかもだが、いなくなるわけじゃないよ』
「僕、奨さんとまた来たいと思ったんだ…」
それは難しくなるのだろうか。
『また来よう、一緒に。必ず』
「ほんと?」
『嗚呼、勿論だ』
奨は秀一に小指を差し出した。それは、ゆびきりげんまんの意味。
秀一は笑って指を絡める。
「約束だね」
その後、二人はライオンがいる猛獣エリアに向かった。
草原を模した広々とした檻の中に、雄と雌のライオンが一匹ずついる。
と、雌ライオンの方が秀一がいるガラス面の前まで近寄ってきた。
ペロペロと赤い舌でガラスを舐める様はまるで秀一に甘えているかのようだ。
「ふふ、可愛いなあ」
ライオンの色は二頭とも茶色だ。ホワイトライオンではない。
『普通のライオンも大きな猫のようで可愛いな。秀一は動物に好かれる素質があるのか?』
ふれあいコーナーで動物に嫉妬していた奨はやや不満げだ。
すると猛獣エリア担当の飼育係のお姉さんが通り掛かった。
「あら、パールちゃんが甘えるなんて珍しい。その子は赤ちゃんからずっとこの動物園にいるんですよ。産まれた時はホワイトライオンで…」
「え?!ホワイトライオンだったんですか?」
「ええ、残念だけどホワイトライオンは、成人して普通の色になってしまう子も多いんですよ」
つまり、この秀一に甘えているライオンは、過去に秀一が抱っこした赤ちゃんだったのだ。
その時はまだ成猫ぐらいだったし、肉球もピンクだった。しかし今はこんなに立派に育っていたのだ……
『もしかしたら、秀一を覚えていたのかもな』
そんなはずはない。だけど、長い歳月を経て再び逢えたことが秀一はとても嬉しかった。
月日の流れは強制的だ。が、無情と感じるばかりではない。
こんな風に嬉しいまさかの再会もある。
そしてこの後、もう1つのまさかの再会が訪れるのである。
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