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第59話
こうして午前中いっぱいを使い、二人は動物園を満喫した。
次は遊園地エリアへと向かう。
併設の遊園地の規模はさほど大きくはない。しかし観覧車、コーヒーカップ、ジェットコースターなどの人気アトラクションは網羅しているようだ。
「遊園地にようこそ!」
派手な衣裳のピエロがピョコピョコとコミカルに動きながら二人に近付いてきた。
手に持っている風船を1つ差し出してくる。
「わ、…あ、ありがとう」
びっくりしたので、ちょっと怯えながら秀一は受け取った。
「遊園地を楽しんで!」
去っていくピエロ。
『どうした秀一?風船貰えて良かったじゃないか。なのに怯えて』
「ピエロってちょっと怖くて」
秀一はYouTuberとしてホラーチャンネルの配信をしている。
当然ホラー映画などを観るのも好きだ。ホラー映画の定番として、恐ろしいピエロ、というのがよく出てくるようになったのは何時からなんだろう。
シリアルキラーがピエロの格好をして子供を追い掛け回す。
真っ赤な隈取りの目と唇は血塗られたようで不気味だ。
そんな話を奨に説明する。
「奨さん知ってる?襲い掛かってくるヤバいピエロとそうじゃないピエロは見分け方があるんだ」
『なんだそれは…』
「やばいピエロは鼻が黒いんだ。赤鼻は大丈夫」
『ええ…』
「やばいピエロは目の隈取りが大きい。つまり、これらの特徴を踏まえたピエロを避けたら大丈夫なんだよ」
こんな所にも研究ヲタクらしい一面を発揮する秀一だ。
キラリと眼鏡の奥の瞳が光る。ピエロが出てくるホラー映画を沢山観て独自に研究した結果だった。
流石に見た目で決めつけるのはどうなのだ、と奨はおもったが、得意気に語る秀一が可愛かったから良しとする。
さて、アトラクションに向かおう。
二人が歩きだした時だった。
「え…!神代先生?!」
誰かの声。一瞬誰の事かわからなかったが、秀一は思い出す。
神代。神代奨ーー
そうだ、神代は奨の名字ではないか。そして奨の生前の職業は教師である。
声の主は秀一の隣に立つ奨の姿を捉え、ガタガタ震えている。
見えているのか?!
「いや、先生は死んだはず、なん、でーー」
目を見開き青ざめ硬直している青年。
秀一は恐る恐る尋ねた。
「…彼が、見えるんですか?」
「見える?見えるってどういう。ま、まさか幽霊?!ひえッ」
『俺を知ってるのか?』
ぺたんと座り込んでしまう青年。
秀一と奨は顔を見合わせる。
奨の生前を知る者なのだろうか。しかし、奨は相手に見覚えがない様子だ。一体誰なのだろう。
先生と呼んでいることから考えるとーー
「……神代先生は、俺が小学生の時に死んじゃったんだ!今でも覚えてるよ。あんな怖い事件ーー」
『そう、俺は死んでいる。だから幽霊だ』
「ひぃッ!」
幽霊という自己紹介に青年は座り込んだまま後ずさりをした。
『怖がらないでくれ。俺は人間に危害を与える幽霊じゃないんだ』
「そ、そんなこと言われても、10年も前に死んだ人が目の前にいたら怖いっすよ!」
秀一は二人の会話に入ることが出来ず、ただ見守るしかない。
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