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第60話
『……君はもしかして、羽柴君じゃないか?』
奨は彼に近付いて屈んで手を差し出す。立ち上がる手助けをしようと。
『ああそうだ、面影があるよ。グリンピースが嫌いな羽柴君だろう?』
青年はこくり、と頷いた。
グリンピースが嫌いな?
秀一は思い出す。奨がオムライスを作ってくれた時に話してくれた生徒の事を。
親が料理を作ってくれないから、代わりに奨が食事をたまに食べさせていた生徒がいたと。
彼はグリンピースが嫌いだと奨は言っていた。
つまりは……
『まさか担任クラスの生徒にこんなところで逢えるとは思わなかったよ。君達を卒業まで見守れなくて申し訳なかったな』
「……先生、全然変わってない……あのまんまの先生だ」
青年は奨の手を握る。
恐る恐る握られた手を秀一は複雑な気持ちにて見つめていた。
***
なんでこんなことになったんだろう?今日は秀一と奨の二人きりのデートじゃなかったのか?
「わあ、速い速い!」
はしゃいだ声をあげているのは
羽柴連(はしば れん)だ。
生前の奨の教え子である。
『もっと回すぞ、それッ!』
奨が中央のテーブルみたいなハンドルをぐるぐると回す。
すると三人が一緒に乗っているコーヒーカップが高速回転した。
最初は驚きと恐怖にいっぱいになった連であったが、奨が当時の学校のこと、クラスメートのこと、連のことを正確に覚えていたので、奨が自分の以前の担任教師であることを認めた。
幽霊であることは秀一への出入りと黒霧を目の前で見せることにより証明出来た。
奨の死亡時小学生だった連は、今は高校生だ。奨が鏡の中に閉じ込められていた10年の歳月の間に成長していた。
「学校で行われた神代先生の合同葬儀、まだ覚えてる。俺、ちっちゃかったから先生たちが死んだのがよくわかんなくて。でも凄く悲しくて、先生の遺影の前でいっぱい泣いた。
それから転校したんだけど、学校は廃校になってたんだ…」
コーヒーカップを楽しんだ後、遊園地内の飲食店にて三人は話している。
秀一はチーズバーガーとオレンジジュース、連はホットドッグとコーラ、を昼食としている。
「神代先生、全然変わらないや。て、幽霊なんだから当たり前かー。優しくて、カッコよくて。クラスでも人気の先生だったんだぜッ」
紙コップのコーラを飲みながらニコニコと話す連。
そんな彼に秀一は複雑な笑みを返す。
奨が危険な幽霊ではないことを納得して貰ったまでは良かった。騒ぎになっても困るから。
しかし、何故その後三人で遊園地を楽しむ流れになったのか?
『羽柴君はクラスのリーダー的存在だったんだよ。優しい子でね、みんなの輪に入れない子にも声を掛けていてね』
奨が秀一に当時の連を説明する。
「先生、照れるっすよ」
嬉しそうな連。オレンジジュースを啜りながら、秀一は苦笑いをするしかない。
奨が見えるのは秀一だけ。
そんな風に思っていたのは間違いだった。波長さえ合えば、他の人にも見えるのだ。
胸がちくちくする。
自分は奨の特別ではなかった。
その事実が秀一を苦しめた。
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