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第61話
『先生が作ってくれたご飯、今でも覚えてる。あの時は毎日毎日お腹がすいて仕方なかったんだ。本当に助かったな…』
しみじみ語る連の姿に、奨が心配そうな顔色を見せる。
『今は、どうなんだ?そのーーご両親は』
『あ、離婚したんですよ、かーちゃん。今はかーちゃんと二人です』
『あの頃クソ親父が浮気してて。かーちゃんはそのせいで荒んで、俺にご飯作る余裕なんかなかった。だけどさ…』
『かーちゃんが悪いんじゃないっていうか。育児って別に、かーちゃん、女性だけがやんなきゃってわけじゃないですよね。だから俺、中学になった時に言ったんです。あんな親父棄てちまえって。それで離婚になりました。そっから、家事は俺がやってます』
連の大変な家庭環境に秀一は驚いた。秀一の両親も多忙で家には不在がちだが仲は良い。
荒んだ家庭で決断をし、今は母親を支えて生きる連はとても立派に見えた。
『俺は、将来自分が結婚したらちゃんと家事も育児もやる男になりたいっすね』
『とても素晴らしい考えだよ、羽柴君』
奨は教え子の成長を誇らしく感じ、その頭を撫でた。
その様子に秀一はまたもやもやする。
確かに連は立派だ。頭を撫でられて然るべし。なんだけどーー
二人の会話は弾み、当時の学校の思い出話しに花が咲いていく。
愉しげな雰囲気の二人。
懐かしそうに目を細める奨。
文化祭、運動会、遠足。
当然秀一には全くわからない話だ。
奨は気を使って時々秀一に向かって説明をしてくれるのだが、ほとんど頭には入らなくて…。
「二人には想い出があっていいな」
ぽつりと呟いた秀一を見て、連が腰をあげた。
「あ、すいません、想い出話しに花が咲いちゃって。そろそろおいとましますよ。元々、独りで遊びに来たんだし」
そんな風に言われたらまるで秀一が邪魔者扱いしたみたいではないか。
慌てて言い添える。
「いや、そういう訳じゃ。折角だしもっと色々な乗り物にみんなで乗りましょう。ね、奨さんもその方がいいよね?」
『嗚呼、俺はまあ』
ハッキリ言わない奨に秀一は唇を噛んだ。連はもう一度座る。
「そうだ、秀一さん。聞きたいことあるっすよ。取り憑かれるのってどうなんです?負担はあるんです?」
何故そんな質問を?
首を傾げながら秀一は答える。
「……奨さんが体内にいる時は下腹…お腹がちょっと重たいけど」
『シュウの中は暖かくて気持ちいいんだ』
「へ、変な言い方するな!」
そういう意味ではないのかもしれないが、べしっと奨の肩を叩く秀一。
『痛いじゃないか』
「知らない」
『じゃあシュウのベッドで俺がゴロゴロするのを許せ』
「それは別の問題!…あ、すみません」
つい、二人きりの時のような漫才を繰り広げていた。
秀一にとってそれは楽しいものであるが、連に疎外感を与えたかもしれない。
秀一は連に申し訳なさげに頭を下げた。
連は全くおかまいなしと言った様子だが…
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