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第63話
『待て、シュウ!』
奨が追い掛けてくる。
当たり前だ、彼は秀一から離れられない。だから追い掛けてくるに過ぎない。秀一はそう思った。
「来ないでよ!」
わかっているのに叫んだ。
飲食店から外に出た。遊園地のBGM、愉しげな音楽に迎えられる。次のアトラクションを目指して歩いている人ごみにぶつかる。
騒がしい遊園地の喧騒が辛い。独りになりたい。
秀一は飲食店の建物の裏側に回った。段ボールなどが積んである場所に座り込み、膝を抱えた。
奨がすぐに追い付いてくる。
『シュウ!』
体育座りをした秀一は顔を隠した。涙が溢れてきていたからだ。
なんで怒ってしまったんだろう?
別に奨は乗り移るとは言わなかったのに。
連だって興味を示しただけだろうに。子供のような行動を取ってしまった自分に嫌気がさす。
そしてそれがまた、自分は連より劣っている、こんな自分は奨に嫌われるしふさわしくないというネガティブに繋がった。
負の思考はどんどん連鎖する。
周りの気持ちも、事実も置いてきぼりにして。
『……シュウ』
息を整えながら、奨は首元を緩めた。そして秀一の傍にしゃがみこむ。
「独りにして」
『……断る』
「そうだね、嫌でも僕から離れられないんだもんね。だから傍にいるだけなんだもんね?」
『違う』
「嘘だッ!憑依してなければ、僕なんかいらないくせに!」
『なんで俺がいらないと思うんだ。そんな事、言ったか?』
ゆるゆる首を振る秀一。
秀一は連に嫉妬していた。
連と奨が二人だけの想い出を話す姿にイライラしてしまった。
奨の特別は自分だけで在りたい。
しかもそれは、憑依という関係性や生命エネルギーを与えるという必要性からではなく…
求めて欲しかった。一番であり唯一無二で在りたかった。
その気持ちはーー
『さっき羽柴君の話しに興味を示したのは、憑依の乗り換えが可能か、気になったからだ。また、憑依の際のエネルギー吸収方法が、性的な行為以外も可能なのか?と考えていた』
そう言えば、Amyはどうやって友基に憑依したのだろうか。彼女は肉食系女子だから無理やり襲ったと考えるべきか…
エネルギー補給の方法も、寝ている友基の…などと考えたら頭痛がする。
奨がそう言うから納得していやらしい行為をしながら生命エネルギーを与えていたが、実は違う方法があるかもしれない。
その発想は秀一にはなかった。
だが、それがあったとして。
秀一は奨との行為から解放される?
頭を振る。
必要だからシてるんじゃない。秀一は、奨とシたいからしている。
彼が特別だから。
でも奨はどうなのか?
「奨さんは、僕とシてたのは…エネルギー補給の為だけ?もし他の方法があったら、シない?」
『……』
ふわり、と。
答えの代わりに添えられた腕。
奨の大きな身体が秀一を包んだ。体育座りのまま抱き締められる。
『……馬鹿だな、シュウは』
低い奨の声が響く。
『違うに決まっているだろ』
密着した二人の体温は溶け合う。彼は本当に幽霊なんだろうか。
こんなにも暖かいのに。
こんなに間近で息遣いすら感じるのに。
『俺は、シュウがーー好きだ』
「……ッ!」
『確かに精液は生命エネルギーだが、それだけじゃない。君を感じさせたい、イかせたい。可愛い悶える君が見たい』
「……ッ」
恥ずかしい。秀一の全身が熱くなる。
『本当はもう一度ーー君の中に入りたい。だが、我慢してるんだ。君が…ちゃんとしてから、と言ったから』
「!!」
顔をあげる秀一。そこには暖かな眼差しで秀一を見つめる奨がいる。
『離れないよ、シュウ。俺は君を……』
「待って」
人差し指を奨の唇に当てる。
「この先は、ここじゃなくて……」
ボソボソと、奨の耳元に囁く秀一だった。
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