65 / 117

第65話

係員の人に案内されて一番底辺へ。降りる人と入れ替わり、秀一と奨は丸いゴンドラに乗り込んだ。向かい合って座る。 窓からは遊園地の様々なアトラクションが見える。 「わあ、凄い。どんどん小さくなっていく」 ゴンドラは音もなく上昇していく。高くなればなるほど地上の建物などは小さく見える。人間なんてもう豆粒みたい。 『俺も子供の頃に親と乗って以来だな』 などと話していたのだが、秀一はふと、視線を、感じた。 ぞわ。背筋に走る寒気。 まるで浴室の天井から水滴が落ちてきたような。 窓の外を見て凍り付く。 目が合ったからだ。 しかし今、秀一たちは観覧車のゴンドラに乗っている。 人なんかいるはずがないーー 「ひッ!」 突然秀一が声をあげたので奨はびっくりした。 『どうした』 「今、……」 外に人が、と言いかけた。しかしそこにはもう、青空が広かっているだけだ。 もしかしたら幽霊? いくつかのオカルト事件に対峙してきた秀一だ。そのぐらいの勘は働く。 幽霊には稼働領域がある。磁場に囚われているからだ。人間に取り憑き生命エネルギーを得ているなら話しは別だが、そうでない幽霊は動き回る事は出来ない。 そう考えると、こんな上空に幽霊がいるのだろうか? 気のせいだ、と思ったのは今の幸せな時間を邪魔されたくなかったから。 「なんでもない」 少しずつ青空に溶け込んでいくゴンドラ。奨は秀一に向き直る。 『シュウ』 「……はい」 『君に憑依してから、ずっと考えていた。確かにきっかけは波長と相性があったからだ。そして君と性的な行為をするのも、最初はエネルギー補給の為だった』 「うん……」 真っ直ぐ視線で貫かれ、秀一は恥ずかしさに赤面する。でも、逃げない。 『君は俺に協力し、バディを組んで幽霊たちの救済を手伝ってくれた。君がいなければどうにもならなかった事件もあった。感謝している』 「そんな…」 感謝されるほどのことはしていない。秀一はただの高校生だ。奨がいてこそ、力を発揮できる。 『そうしているうちに、俺はいつしか君に惹かれたーー君が、好きだ』 胸が苦しくなる。とくん、と心臓が高鳴る。 『離れられないんじゃない。離れたくない。エネルギー補給じゃない、…本当の意味で君が欲しいんだ、今は』 「う……」 告白を受けるなら観覧車がいいと言ったのは秀一だ。ロマンチックに憧れたから。しかし恥ずかしいのには変わりなかった。こんなイケメンから真顔で告白されるなんて! 『…俺の恋人になってくれないか、シュウーーいや、秀一。そして今度こそ本当の意味で、君を抱かせて欲しいーーつまり』 ずい、と奨は身を乗り出す。二人の距離が近くなる。 『君の中に入りたい』

ともだちにシェアしよう!