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第65話
係員の人に案内されて一番底辺へ。降りる人と入れ替わり、秀一と奨は丸いゴンドラに乗り込んだ。向かい合って座る。
窓からは遊園地の様々なアトラクションが見える。
「わあ、凄い。どんどん小さくなっていく」
ゴンドラは音もなく上昇していく。高くなればなるほど地上の建物などは小さく見える。人間なんてもう豆粒みたい。
『俺も子供の頃に親と乗って以来だな』
などと話していたのだが、秀一はふと、視線を、感じた。
ぞわ。背筋に走る寒気。
まるで浴室の天井から水滴が落ちてきたような。
窓の外を見て凍り付く。
目が合ったからだ。
しかし今、秀一たちは観覧車のゴンドラに乗っている。
人なんかいるはずがないーー
「ひッ!」
突然秀一が声をあげたので奨はびっくりした。
『どうした』
「今、……」
外に人が、と言いかけた。しかしそこにはもう、青空が広かっているだけだ。
もしかしたら幽霊?
いくつかのオカルト事件に対峙してきた秀一だ。そのぐらいの勘は働く。
幽霊には稼働領域がある。磁場に囚われているからだ。人間に取り憑き生命エネルギーを得ているなら話しは別だが、そうでない幽霊は動き回る事は出来ない。
そう考えると、こんな上空に幽霊がいるのだろうか?
気のせいだ、と思ったのは今の幸せな時間を邪魔されたくなかったから。
「なんでもない」
少しずつ青空に溶け込んでいくゴンドラ。奨は秀一に向き直る。
『シュウ』
「……はい」
『君に憑依してから、ずっと考えていた。確かにきっかけは波長と相性があったからだ。そして君と性的な行為をするのも、最初はエネルギー補給の為だった』
「うん……」
真っ直ぐ視線で貫かれ、秀一は恥ずかしさに赤面する。でも、逃げない。
『君は俺に協力し、バディを組んで幽霊たちの救済を手伝ってくれた。君がいなければどうにもならなかった事件もあった。感謝している』
「そんな…」
感謝されるほどのことはしていない。秀一はただの高校生だ。奨がいてこそ、力を発揮できる。
『そうしているうちに、俺はいつしか君に惹かれたーー君が、好きだ』
胸が苦しくなる。とくん、と心臓が高鳴る。
『離れられないんじゃない。離れたくない。エネルギー補給じゃない、…本当の意味で君が欲しいんだ、今は』
「う……」
告白を受けるなら観覧車がいいと言ったのは秀一だ。ロマンチックに憧れたから。しかし恥ずかしいのには変わりなかった。こんなイケメンから真顔で告白されるなんて!
『…俺の恋人になってくれないか、シュウーーいや、秀一。そして今度こそ本当の意味で、君を抱かせて欲しいーーつまり』
ずい、と奨は身を乗り出す。二人の距離が近くなる。
『君の中に入りたい』
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