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第67話
二人は観覧車を降りた。
幸せいっぱいである。
次はなんのアトラクションを楽しもうか?
などと話していたら、ぐう、と秀一のお腹の虫が鳴いた。
「あれ、さっき食べたのにな」
そう言えば最近食欲が増している。独りで食べる食事は味気ないが、奨がいてくれて、愉しいからかもしれない。
『お腹がすいたのか?何か食べるか?』
「でも肥ったらやだなあ」
恋人になったので容姿を気にする秀一である。最近は食べている割には痩せた気がするが。
新しい服を買う時も、入らないと思ったサイズがスッと着れた。
『肥ってもシュウはシュウだろう。可愛いのは変わらないぞ』
「そうだけど…あ、奨さんごめん、僕ちょっとお手洗い…」
『嗚呼、待っているよ』
奨を外に待たせ、秀一は手洗いに向かう。
恋人になったのだからトイレも一緒など言われなくて良かった。
彼の溺愛ぶりは酷いので密かに心配していたのだが…。
遊園地の手洗いは広い。個室は10はあるだろうか。沢山のお客さんが来るためだ。
しかし今、中には誰もいなかった。秀一は小便器にて用を済ませる。
洗面台で手を洗う。
今日は最高の日だ。奨の元教え子である羽柴連にはハラハラさせられたが、結局、奨は秀一を選んでくれた。そして観覧車での告白というロマンチック。
思い出すとにやけてしまう。
「幸せ、だなあ…」
ポツリ、呟いたその時。鏡に人影が映る。秀一の後ろに誰かがーー。
白塗りの顔に、赤い団子鼻。目と口の周りにも赤い縁取り。
頭はちりちりのパーマで、蝶ネクタイを首にし水玉模様の派手なズボンを履いている。
ちょっと太めでずんぐりむっくり。
ーーピエロの格好をした中年男だ。
「わあッ!」
反射的に振り向き身体をずらした秀一。遊園地の入り口で風船を渡してきたピエロ?
いや、微妙に服装や顔が違う気がする。
ピエロは秀一が手を洗っていた洗面台で手を洗い始めた。
なんだ、順番待ちか。
ホッと胸を撫で下ろす。
バシャバシャと派手に水を出しながらピエロは手を洗っている。
『坊主、見えてるのか?』
「え?」
独り言?秀一に話し掛けている?
『見えてるな?俺のこと』
そこで秀一はハッとする。
トイレは人気がなくガラガラだ。つまり、秀一が使っていた洗面台以外も空いていた訳である。
なのに何故ピエロは秀一の後ろに並び、そこの洗面台を使う必要があった?
ピエロが秀一の方を向いた。
びしょびしょの手でむんずと秀一の腕を掴む。
『……あはは、見いつけた!』
叫んだピエロの目が、いきなり崩れ始める。目を縁取っていた赤は化粧ではなく、血だったのだ。白塗りの頬の上を流れ落ちる。
口からも血が吐き出された。ごぽ、という嫌な音がしたかと思うと、薄く開いた唇からも血が滴り、顎を濡らして落ちていく。
「ひゃあッ!?」
ピエロは幽霊だ。しかも、こんな異常な様なら恐らく死狂化している。
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