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第68話

逃げなくちゃ!だが秀一の腕はきつく掴まれていた。 『やっと俺が見える人間に逢えた……毎日毎日沢山の人が来るのに、誰も俺の姿が見えないし、声が聴こえなかったんだ』 ピエロは嬉しそうにニタアと嗤った。真っ赤な唇が横に広がり、不気味さが増す。 「あ、…なたは、なんで、死んだんですか?」 震える声で秀一は聴いた。 するとピエロは肩を竦める。 『リストラされたからだよ。今は娯楽施設はどんどん消えてってるんだ。動物園も遊園地も。みんなが貧乏、貧困に喘いでる、そんなとこに行く余裕がないんだよ。そういう煽りを食らうのは俺みたいな末端さ』 『芸一筋に生きてきた。だけど、最初に勤めていたサーカスがまず畳まれて。仕方ないからこの遊園地に雇って貰ったけどまた……少ない席を取り合うのに俺は負けた。女房子供にも逃げられて、もう死ぬしかなかったんだよ』 ひひ、とピエロは嗤う。 『腹、包丁でかっさばいて死んだんだ。腹を押さえてた手、血塗れだろ?』 ピエロはそう言い、秀一を掴んでいない方の掌を開いて見せる。 たしかに真っ赤だが、それなら顔中が血で真っ赤なのだが… 『どんだけ洗ってもさ、取れないんだよ、この血が』 研究結果では鼻が赤いとか隈取りが大きいなどが殺人鬼ピエロの特徴だった。 しかしこいつは全部が真っ赤だ! ホラー映画のピエロなんて、どんなに怖くとも可愛いもんだった。 本物の幽霊には敵わない。 ちなみに鼻の色は赤だ。秀一の研究は役に立たなかった。 秀一は恐怖に堪えながら頭を働かせる。今、奨はいない。なんとか独りで切り抜けなくては。 「ぼ…僕、あなたが言うように幽霊が見えるんだ。だから、あなたのような困ってる幽霊を助ける活動をしてる。僕がなんとかするからーー」 『なんとか?ああ、取り憑かせてくれんのか?そいつは有難いな』 「それは駄目!」 『いいか駄目かなんて聴いてないよ、坊主。俺は人生まだまだ楽しみたかったんだ、なあ、お前ーー』 ニタリ。その嗤いが下品なものに変わったのに秀一は気付く。 『うまそうな生命エネルギーの匂いがするな?喰わせてくれよーー』 「やだ!!」 秀一は暴れ、脚でピエロの脛を思い切り蹴る。 ピエロは驚いて秀一の腕を離した。その隙にするりと逃げ出すが、運悪くピエロがいる方面が手洗いの出口だ。必然的に奥に逃げることになる。 『待て!』 追い掛けてくるピエロ。秀一は一番奥の個室に入ると鍵を掛ける。 『おい開けろ!!』 ピエロがどんどんと扉を叩いている。 幽霊というとイメージでは壁をすり抜けたりするが、そんなに都合良くはないというのは、奨と検証済である。 人を掴むことが出来るんだから、壁を貫通はしない。 見た目については内面の憎しみや恨みが色濃く現れるようだ。 よく世間を騒がす恐ろしい心霊写真などの幽霊は、そういったものが強いので、恐ろしい形相をしていたりする。 奨はイケメンのままだったし、Amyも綺麗なままだった。 ピエロがこんなにも恐ろしい形相になったのは殺され、その相手に恨みが強いからであろう。 手洗いにいる時間が長引けば不審に思った奨が来てくれるだろう。しかし、何か出来ることはないか? 秀一は男だ。奨に護られるのは嬉しいが、頼りっぱなしなんて嫌だ。また、二人で何回かバディを組んで闘った経験だってある。 自分を信じるのだ。 切り抜ける力があると。

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