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第69話

ショルダーバッグを探る。中に使えるものは…あった! 秀一は個室内にとある細工をした。そして扉の向こうにいるピエロに話し掛ける。 「ねえ、さっきはごめんなさい。あなたも辛いんだよね。僕の中に入ってもいいよ…」 『本当か?』 「…なわけあるかッ!」 油断させ、突然扉を開く。驚いたピエロに秀一は、ショルダーバッグ内にあった虫除けスプレーを浴びせる。 『わぎゃ!?』 眼を瞑り仰け反ったピエロの首に、ショルダーバッグの紐部分を引っ掛ける。それを個室の扉の内側についている荷物かけのフックを通してから下に引っ張った。 『げえ!』 テコの原理を利用して首を絞める。ピエロがひるんだらパッと手を離して、入り口の方へ。 『シュウ、遅いから心配ーーおいッ!』 丁度奨が手洗いに入ってきた。 「奨さん!」 『待てよ!!』 奨の方へ駆け寄ろうとした秀一。しかしピエロはあの程度では怯まなかったのだ。 むんずと後ろから肩を掴まれ秀一は拘束された。 『あれ、お仲間?』 ピエロは奨を見つめた。 『彼を離せ』 『へえ、もしかしてこの餓鬼に取り憑いてる?そりゃうまくやったね、中々こういう霊と波長があう人間、いないもんね』 ピエロは背後から秀一を抱き締めるようにし、頬を赤い舌でベロリと舐めた。秀一の頬に血が付着する。 「いやッ…!」 『悪いけどこの餓鬼は俺が貰うよ。ずっと待ってたんだよ……うまそうな生命エネルギーにありつけるの』 捕まってしまった秀一はもがくが、体格のいいピエロの腕からは逃れられない。 「離せッ!」 そんな様子に、奨の瞳に怒りの炎が宿る。 『……冗談じゃない、シュウは渡さない』 『お前は取り憑けるなら、誰でもいいんだろう?生命エネルギーが欲しいだけなんだろ? ……俺は違う。俺はーー』 キッと顔をあげ、ピエロを睨み付ける奨。 『俺はシュウがいいんだッ!』 叫んだと同時、奨の全身から黒霧が放出されて触手の形に。その先端は槍のように鋭く尖り、ピエロに向かって飛んでいく。 が、ピエロは秀一を盾にする。 おかげで奨の攻撃はすんでのところで止めるしかない。 『ばーか!コイツに怪我させるつもりか?』 秀一は悔しさに泣きそうになった。足を引っ張りたくないのに、役に立とうとしたのに。結局ただの無力な高校生なのか?秀一は。 『随分イケメンだな、お前。俺はイケメンって奴が大嫌いなんだよね』 ピエロの目と口から再び大量の血が流れる。それは床まで滴ると生き物のように蠢き、奨の足元まで真っ直ぐ流れていく。 廃校舎の女幽霊は髪の毛を自在に伸ばしたり操っていたが、このピエロは血液使いということか。 奨の足元まで到達した血液は、靴先から足首、ふくらはぎ、太股と奨の身体を這い上がる。 『俺がこの餓鬼に取り憑くまで大人しくしてろよ。俺が入って、すぐお前を追い出してやるから』 足元から腰まで、奨は真っ赤な血液に覆われて動けなくなっている。見た目では血に染まっているだけのようにしか見えないが、それは奨の身体をきつく締め上げていた。 『それじゃ、俺とエッチなことしようか。あそこのイケメンとはシてんだろ?俺にも生命エネルギーを寄越せ』 「や…!」 下劣な嗤いを浮かべながら、ピエロは秀一の胸元を服の上からまさぐろうとした。 嫌だ、奨さん以外に触られたくなんかないし、中になんて絶対他人を入れたくない…!

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