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第71話
その夜。
帰宅した秀一は夕飯を済ませ、シャワーを浴びてパジャマに着替えた。
スマホをチェックするとLINEの通知が三件来ている。
まずは母親から。今はフランスのパリに滞在しているらしい。父はイギリス。
毎日学会と講演スケジュールと人に会う用事が忙しくて、全然観光出来ていないなどの愚痴が書かれていた。
三人バラバラな場所にいながら、家族は繋がっている。それが不思議な感じである。
夏休み中独りで留守番をすると決めたのは、独りで色々な事を出来るようになるためだ。
いじめられて、引き込もっていた日々に戻りたくない。
強くなりたい。自分を変えたい。なんでも積極的にやってみたい。そんな気持ちで始めたのがYouTuberだった。
そこからあれよあれよ、幽霊に憑依されてバディを組み活躍するなんて思いもしなかったが…
母親のLINEの続きには元気にしているか、寂しくないかなど綴られていた。秀一は微笑む。
「僕、毎日愉しいよ。元気だよ。すっごく充実した夏休み、送ってるからね」
『どうした、シュウ?』
「母さんからLINEが来たんだ。みてみて。あとは……友基さんと連さんから」
秀一は実体化した奨と並んでベッドに腰かけた。
友基のLINEは以下の内容だった。
「秀一さん、元気にやってます?俺は元気です。Amyの事で悩んでいた時は食欲もなくて、めちゃくちゃ痩せちゃったんですが、食べられるようになって体調も戻りました。
あの時は本当にお世話になりました。
秀一さんに色々教えて貰ったお陰で、Amyの歌の全て集めた動画は着々出来上がってます。
完成楽しみにしていてくださいね」
友基には秀一の持てる動画編集技術は全て教え込んだ。きっと彼はAmyの想い出を形にして遺すだろう。
次は連。
「秀一さん、神代先生、
今日は二人のことを邪魔してごめんなさい。今度三人で改めて逢いましょう。
そう言えば、秀一さんはYouTuberなんですよね?どんや配信やってるんですか?良かったら教えてください」
三人、という表現に秀一の胸は暖かくなる。
秀一は早速三通それぞれに返事を書いた。
『愉しそうだな、シュウ』
「うん。僕、友達っていなかったから。こんな風にLINEでやり取りするの初めて」
秀一に取ってLINEは家族との連絡手段でしかなかったから。
「そうだ、奨さん……約束の膝枕、したげる」
それは約束だ。秀一はベッドの上で横座りをした。奨が寝そべり、太ももの上に頭を載せる。
「耳かきとか…してほしい?」
『いや、いいよ。それより、髪を撫でて欲しいな』
リクエストに添い、秀一は奨のウェーブがかかった髪を撫でる。
指先ですくように。
『…今日は大活躍だったな、シュウ』
「そう、かな」
『君はとても聡明だし勇気がある。君となら、俺はバディを組んでやっていけると改めて思ったよ』
「……」
『俺は人を導き助ける教師という職業に憧れて上京した。その為に一生懸命勉強したし、努力もしたんだ。
死んでしまい人生が終わり、その夢が断たれたのが辛かった』
それが奨の悔い?秀一は彼の話に聞き入る。
『だが、こうして君に憑依することで俺は第二の人生を歩み始めた気分なんだよ。だから、君にとても感謝している』
「……うん」
『ありがとう、シュウ……秀一。君は俺の最高のバディだ』
「……それだけ?」
『恋人としても、最高だよ』
ピエロに対して奨は叫んだ。
自分は秀一がいいのだと。
その言葉が染み入る。
膝の上が暖かい。この幸せの重みをいつまでも感じていたい。
秀一は強く強く、そう思った。
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