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第72話
「奨さん、お腹すいてるよね?
寝る前にーー」
朝から遊園地にて過ごしたので奨は食事をしていない。
すいていないはずはない。
もじもじと秀一は申し出る。
食事はつまりエッチだから。
しかし奨は言った。
『いや、今日は色々あって疲れただろう?ゆっくり休め』
「……すいてないの?」
『すいてるさ。でも今夜ぐらい我慢できる。疲れているシュウに無理をさせてまで腹を満たしたくない』
そんなことを言う奨は初めて見た。
「……」
『さあ、寝よう。抱き締めてあげるから、ほら』
布団に入ると、奨は秀一を後ろから抱き締めた。
こうして密着すると余計に秀一の目は醒めた。ドキドキするからだ。そして同時に脳内には考え事が巡っている。
「…さっき奨さんが言ってたこと」
「奨さんと活動するのは遣り甲斐があるし楽しい。YouTuberを始めた時と似ていて…自分に出来ないと思ったことが出来ると、自信に繋がる。奨さんといるといっぱい僕の知らない世界が見えて、僕は新しい可能性を掴める」
『……全部シュウが頑張ったからだ。いくら俺の影響があり、俺が導いたとて、シュウがやる気を出さなきゃ始まらない。大概、一番の敵は自分だ。みんな、自分なんか出来ないと、駄目だと決めつけているからな』
それはよくわかる。秀一は特に引きこもった過去があるからこそ。
抜け出せない気持ちも、踏み出せない気持ちも。
「奨さんは僕にありがとうって言ったけど、むしろ僕がありがとうなんだ。だけどーー」
身体をずらし、もう少し密着を深める。秀一は、奨の厚い胸板に入り込む形になった。もっと傍にいたくて。
「この活動を続けたらいつか奨さんは満足して、天国に行っちゃうんじゃって」
今度は奨が少し黙った。暗い部屋に沈黙が流れる。
「最初は出ていけとか言ったよ、僕。幽霊に取り憑かれた状態なんて嫌だった。だけど、僕は奨さんを好きになって、奨さんも僕をーー折角恋人になったのに、いつか離れ離れになるなんてーーや、だ」
すがるようにしがみついた。奨はそんは秀一の背中に腕を回して抱き締める。
「行かないで、奨さん。ずっと傍にいてくれるよね?離れないよね?」
答えの代わりに奨は秀一の唇を塞いだ。情熱的な深い口付け。秀一は息まで奪われて目を見開く。
強引にねじ込まれた舌に秀一は舌で応える。ねっとりした交わりに酔いしれる。
『……抱きたい、シュウ』
唇を離した奨は秀一に熱い眼差しを注ぎながら言う。
食事ではない、行為。
必要だからするのではない。
欲しいから。
狂おしいほど、欲しいから。
答えを言わなかった奨に、秀一は今は深く聞くまいと心に決めた。
こんなにも欲してくれているのだから。
「うん……僕を抱いて。いっぱい抱いて、奨さん」
頬を染めながら応える秀一だった。
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