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第76話
その夜、秀一は夢を見た。
気が付くとあの廃校舎にいる。
手にはハンディカメラと懐中電灯。
秀一は実況しながら校舎を探索する。暗い廊下を歩きながら思う。
いけない、これ以上行っては。
案の定、男子トイレからずり、ずり、と何かが這い出て来る。
髪の毛が伸びきった女の霊だ。
見開かれた目は血走り赤い。口は渇ききりひび割れ、恐ろしい形相だ。
「うわッ!」
秀一は踵を返して逃げる。現実と違うのは、女の霊がべたべたと四肢で廊下を這いながら凄いスピードで追い掛けて来ることだ。
「わッ!!く、来るなッ!」
踊り場に逃げるんだ、そうすれば奨さんがいる!
が、階段の先に誰かがいる。縫いぐるみだらけの派手なゴスロリは忘れもしないAmyだ。
『どこ行くの~?』
彼女は真っ赤な爪を伸ばし、秀一を狙う。刺さらず避けられたのは奇跡、鋭い切っ先は廊下の床を抉った。
教室に逃げよう!音楽室に逃げ込む。すると、ずんぐりむっくりの男がお手玉をしている。
ピエロだ。
しかも、ピエロがくるくると回しているものはボールではない。
人間の首だ。
いくつもの首を器用にポンポン投げている姿に、秀一は声も出ない。
助けて、助けて奨さん!!
ついに秀一はその場にへたり込む。Amyと女の霊が音楽室に侵入してきた。三人はじわじわと輪を狭め、秀一に詰め寄る。
来ないで…!!
ーーその時。
黒い触手が鞭のように空を切る。
それは女の霊の顔を打ち、返す刃でAmyの爪に巻き付いてバキッと折る。すぐに離れてピエロの脚を捕らえると、あっという間に転倒させた。
一瞬の出来事。
「奨さん!!」
暗闇に奨の姿が浮かび上がる。
秀一はそれを見て歓喜の声を漏らす。
助けに来てくれたのだ。
彼は。
そう思うと嬉しさと安堵に秀一は震える。
がーー
奨の触手は女の霊の首に巻き付く。ギリギリと音が聴こえるような凄い締め上げに、首が伸びてしまう。
『げえ』
ぼろ雑巾のように女の霊が倒れた。
次はAmyだ。触手は鞭の殴打で彼女を襲う。
『痛い、痛いよ!』
悲鳴をあげるAmy。しかし奨が攻撃の手を緩めはしない。
『やめてーーうぐ、』
喉を一突き。触手の先が尖り、Amyの白く細い喉を貫く。
血が噴き出して、彼女もよろよろ倒れた。
「しょ、奨さ…」
今まで、大体の死狂は説得に応じてくれた。彼らも元は人間、長い孤独が狂わせただけなのだと奨は言っていた。
勿論、完全に言葉も通じない死狂の場合はバトルにて生命エネルギーを奪い強制的に地上から追い払うこともあった。
が、こんな残虐なやり方はない。
一度も見たことがない。
残ったピエロにも、逃がすかと触手が向かう。
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