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第80話
狭い部屋だ。連と父親も同じサイズの部屋に暮らしているのだろうが、バストイレ以外はキッチンと四畳のダイニング、後は六畳の畳の部屋があるのみ。
押し入れの扉は開いている。
家具はないのでガランとしている。
誰も、いない。
秀一と連の波長が合わず部屋にいる霊が見えない可能性もある。
が、奨は首を振った。
『霊の姿はないな』
「えっと、僕は今、最近人が亡くなったアパートの一室に来てます。ラップ音が頻繁にするとの事でしたが……残念、誰もいません!」
配信用に明るい声を出す秀一。
「マジ残念」
「今のゲストのレンさんです。レンさん、ラップ音を聴いたんですよね?」
「聴いた聴いた。それも一回じゃないし、廊下から窓を見たら白い影みたいの見えたこともあったんだ!あれなんだったんだよー、なんもないの?チクショー」
悔しがる連。
「レンさんのストーカー女子とか」
「やめろそっちのが怖いわ」
秀一はYouTuberシュウとしてふざけた事を言った。
が、その次の瞬間ーー
『危ない!!』
奨が叫ぶ。押し入れから、何か白い塊が弾丸のように飛び出してきた。
それは鋭い爪でカメラを持った秀一に襲い掛かる。
「わッ?!」
思わず尻餅をつく秀一。奨がすぐ戦闘態勢に入る。黒霧を纏い前に出る。
『連、下がれ!』
白い塊は着地した後、またジャンプした。爪がシャッと連の顔にヒットする。
「いっ…!」
引っ掛かれた連は、顔を手で押さえて蹲った。
奨が黒霧を触手に変化させ、塊を追い掛ける。が、鞠のように縦横無尽、部屋内を暴れまわる素早い動きを中々捕らえられない。
「連さんこっち!」
秀一は怪我をした連の手を引っ張り廊下に逃げる。
『扉を閉めろ、シュウ!』
まだ部屋に奨がいる。彼は1人で謎の白い塊と対峙するつもりだ。
「で、でも」
躊躇っている間に、奨の背中から湧き出た触手が扉を乱暴に締める。
「奨さん!」
秀一たちを逃がしている間防御は出来ない。奨は攻撃を一方的に全身に浴びる。幸いなのは相手の大きさが小さいので、いくら鋭い爪で引っ掛かれても致命傷にはならないこと。
しかし、無数の傷を身体につけられては生命エネルギーは徐々に削られていく。
相手の正体が見極められたのは、その動きが一瞬止まった瞬間。
それは真っ白な成猫であった。
しかし、目は燃えるように真っ赤で、口が顔いっぱいに裂けている。
死狂化した猫ーー
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