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第81話
『シュウ!猫だ、猫の霊だ!』
扉の向こうにいる秀一たちに奨は叫んで伝えた。
『動きが素早くて捕まえられん!』
普通の猫だって捕まえるのは大変だ。それが更に霊になり死狂、凶暴化しているとなれば。
猫は身軽に飛び回り、爪で奨の触手に傷をつけていく。
小さな傷は霊である奨にとって大きなダメージはない。しかし、少しずつエネルギーを削られていくのは確かだ。
スピード。結局これ以上の武器はない。攻撃するにしろ防御するにしろ相手より先に動けるのだ。
『大人しくしろッ!』
奨は何本もの触手を一度に放つ。一本をAmyを引っかけた時のように忍ばせて。しかし、動物の勘は鋭い。見えない動きも読まれてしまう。
やがて奨は防戦一方となった。
「奨さん!大丈夫なの?!」
『……シュウ、来るな』
奨がピンチだ。なのに彼は、秀一を巻き込みたくないと考えて助けを求めない。なんとかしなければ。
秀一は廊下を見渡して、あるものを見つけた。
「連さん、ちょっと連さんちのもの貸して!」
「え?!いいけど」
返事を聞くより先に秀一は走り出す。カメラを放り出して。
向かったのは廊下の一番奥、連の家の前だ。玄関先に置いてあるあるものを掴んだ。
走って戻り、部屋の扉を開く。
「奨さん、僕の中に!!」
秀一の合図で奨の姿が一瞬で消える。猫の霊は標的を失ったが、戸惑った様子も見せずに今度は秀一目掛けて襲い掛かってくる。
「くらえ!!」
秀一が手にしているのは消火器だ。学校で消火訓練をしたのを思い出す。
安全ピンは移動中に抜いてある。
右手に握ったホースの先を猫の霊に向け、レバーを強く押す。
ホースの先端から白い薬剤が水のように勢いよく放出され、猫の霊の視界を奪った。
跳び跳ねていた猫は動きが鈍り、後ろに逃げる。
そして最初に隠れていた押し入れの中にぴょんと姿を消した。
奨が再び姿を現して、黒霧の触手で押し入れ内に追い掛け猫をぐるぐる巻きにする。捕らえることに成功したのだ。
問題は騒ぎになってしまったことだ。大騒ぎして消火器をぶっぱなしたせいで、何人かの住民が部屋から出てきて様子を伺っている。
「やば…」
真っ青になる連と秀一。一難去って、また一難ーー
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