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第82話
火元もなく消火器を使い部屋を汚したとして、秀一と連は管理人から散々油を絞られた。
管理人が連の知り合いではなかったらもっと怒られたであろう。
三人は今、連の部屋にいる。母親が仕事から帰ったら更に怒られることが確定している連は項垂れていた。
猫の霊につけられた頬の傷には絆創膏が貼られている。
大した傷でなくて良かった。
問題は、奨が捕らえている死狂化した猫だ。黒霧でぐるぐる巻きにしているから暴れはしないものの…
『人が亡くなった部屋ではなかったのか?いたのは猫の霊だったのか』
『羽柴君は、亡くなった人とは交流はあったのか?どんな人で、死因とかはわかってるのか?』
奨が訊ねると、連が答えた。
「ええと、小山田光弘(おやまだみつひろ)さんって名前で、歳は40代ぐらい。独り暮らし。亡くなった原因は心筋梗塞って聞いてます。廊下ですれ違ったら挨拶するぐらいだったからそれ以上は知らないけど…第一発見者は管理人さんだったらしいっすよ」
死因は管理人から聞いたとのこと。第一発見者も管理人だった。
話ながら連は白猫をじっと見つめた。
「俺その猫は知ってる……いや、正確には、生きてる頃の、だけど。近所の野良猫。よくアパートの近くに来ていたから、たまにエサをやったり撫でたりしてた。多分、他の住民もそうしてて…アパート全体で飼ってるような感じだったんだよ」
猫は小さくにゃん、と鳴いた。
次に声をあげたのは秀一だ。
「待って。僕、小山田光弘って名前聞いたことがあるよ。確かーー」
名前をスマホで検索する。するとニュース記事が出てきた。
人気アニメの作画監督急死。昨夜未明、小山田光弘さん(43)が自宅アパートで心筋梗塞を起こして倒れているのが発見されました。
小山田さんは人気アニメ『白銀の刃』の作画監督として知られ…
「マジかよ、毎週アニメ観てるよ俺。知らなかった…ただの冴えないおっさんだと思ってたら…」
「連さん、それよりさ、あのアニメの主人公って白猫飼ってない?この猫、それにそっくりだよ」
「あ…」
秀一の指摘に連は目を見開く。
『そうなのか…なら、こうだろうか。小山田は野良猫を可愛がっていた。そしてアニメのキャラクターのモデルとしていた。しかし、小山田は亡くなった。その後、なんらかの理由で猫も死んでしまい、死狂化した』
「猫はなんで死んだの?自然死で…ああはならないよね」
首を傾げる秀一。
『恐らく殺されたんじゃないか。猫の無念を晴らすには、その犯人を見つける必要があるだろうな』
「でも猫は喋れないから犯人を教えてくれないよ?」
『色々調べてみよう』
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