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第91話

「管理人さんに?昨日もう散々謝ったけど」 翌日、秀一と奨は連に会いに行った。秀一はアパート管理人に逢わせて貰えないかと連に頼んだのである。 「恐らく猫を殺したのは管理人さんだよ」 「にゃんだって?」 連の言葉がおかしい。猫を取り憑かせている影響なんだろうか。 このまま猫耳猫尻尾が生えてきたら…絶対奨が萌えるだろう。秀一は眉をしかめる。 「亡くなった小山田さんを管理人さんは発見した。その時、部屋にはスケッチが沢山あったんだよ。白銀の刃は人気アニメだから、これを売れば儲かると管理人さんは思った。それで、警察か病院に通報する前に盗んだ」 「だけど部屋には猫がいたんだ。猫は管理人の邪魔をした。遺族が部屋を片付けようとした時も邪魔したぐらいだからね。…多分、飼い主だった小山田さんの遺品を護ろうとしたんだよ」 猫が連の身体から現れ実体化し、にゃんと鳴いた。まるでそうだと言うように。 「盗みを邪魔された管理人さんは、猫をーー」 辻褄はあう。まだ推論でしかないわけだが。 『野良猫の場合、他人の所有ではないから器物破損には該当しない。しかし動物愛護法違反の罪には問える。それからスケッチについては窃盗だな。故人の持ち物と考えるなら遺族にまず連絡を取るべきだろう』 遺族が出品したのかどうかも問い合わせたらわかることだ。 「金儲けの為にブランカを殺すなんて許せないにゃ!」 憤慨する連。ブランカ?秀一が首を傾げると、連は白猫の頭を撫でた。 「こいつの名前だよ。俺がつけたんだ。昨日色々考えたけど、俺、こいつが取り憑いたままでもいいかにゃって」 「え?!」 「だって秀一さんだって、奨さんと一緒にいるじゃにゃいすか」 「そ、それは」 ーーそれは、恋人だし! 人間だし!! と脳内で突っ込みつつ、秀一は思う。奨が常々言う「霊は地上にいるべき存在ではない」という言葉を。 奨はなんと言うだろうか。猫が天国に行くべきなら、奨とて、そうなるはずだ。 『にゃおん』 白猫は連の腕にすりすりと頬を寄せている。こうしていると霊だなんて思えない。ただの猫だ。 『狂暴性はなくなったようだな。連がそう決めたのなら、俺は反対はしない。ただし、霊と共にあるということはリスクだ。身体能力の上昇など、リターンもあるがな』 「リスク……」 たとえば、霊と話しているところを霊が見えない人間に目撃されたら頭のおかしい人扱いを受ける。 それにもう1つ重大な問題があるだろう。 「連さん、結局猫の…ブランカの餌はどうしたんですか?」 「それ聞く?」 真顔で返された。連も年頃なんだし毎日自慰ぐらいはするだろうが…。 「いいえ、スミマセン忘れてください…」 秀一は連から目を逸らす。 考えてはいけない、きっと。

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