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第93話
秀一と奨の物語はいよいよラストに向けて走り出すが、その前に他愛ない日常の一幕をお届けしよう。
『シュウ、食事には彩りが必要だと思わないか』
突然こんなこと言い出した奨に、秀一は嫌な予感しかない。
「それ新しいテーブルクロスが欲しいとか、食器が欲しいとかじゃないよね」
人間ならそうだが、彼の場合まず食事が食事じゃないわけで。
『そうだな。俺の場合食べるのは秀一だ。秀一を料理とするならテーブルクロスは……服とならないか?』
「どんな飛躍なの?スーパージャンプ?幅跳びの選手でもそんな距離は跳ばないと思うけど」
『可愛い服を着た君を抱きたい』
ジャンプの距離が更に増えたので秀一はため息を溢す。
「あ?寝言かな?寝言は寝て言おうよね、変態教師」
『どうして君は時々酷く辛辣になるんだ?』
お前が変態だからだ!と秀一は内心毒づく。
「……なんで男の僕に可愛さとか求めるわけ?僕、可愛くなんかなりたくないし」
『どうして男が可愛いと駄目なんだ。そういう考えは今時古いぞ。女子は可愛く、男子はかっこよくという思想はジェンダーの押し付けだろう』
正論で言いくるめてくる奨に、秀一は気圧される。
「それはそうだけど」
『人間は在りたいようにあればいい。周りを気にしすぎたり、こうだという形に囚われすぎる必要はない。
今はどんどんそういう時代になってきてるんじゃないか?
女性、男性という区別ではなく人間らしさと、個性を大切にすべきだ』
「それは、まあ」
『だから可愛い服を着てくれ。可愛いお前を食べたいんだ』
結局そこかーい!
秀一は心の奥底で突っ込む。
「ねえ、立派な事を言ってたけど結局そこ?ちなみにどんなのを僕に着てほしいの?」
念のために聞いてみる。
『ナース服、ミニスカサンタ、ブレザー、スク水とか。奨はお洒落が似合うぞ』
「それはお洒落なの?死んでも嫌なんだけど?」
お洒落には肯定的になった秀一だが、奨が言ってるのは女装じゃないか。話が違う。
『俺は死んでいるが嫌じゃない』
「じゃあ奨さんが着なよ」
『俺が似合うか?ミニスカサンタのごつい男を想像しろ。本当にいいのか?』
「ごめんなさい許してください……」
言いくるめられた気がするが、秀一は諦めた。
「……わかった、着てあげる。だけど奨さんの前だけ、ご飯の時だけだからね。彩りなんだから」
『本当か?』
奨の目が輝いた。なんて単純なんだろう。こんなエッチな教師がいていいの?勿論、秀一は奨の生徒じゃないし、二人の関係はプライベートだけど。
ただ、奨が喜ぶ姿に秀一は弱い。
『アダルトショップに行くか』
秀一がもやもや考えていたら唐突にエロワードが振ってくる。
『そういう服を買うならアダルトショップだろう』
「……あのねセンセ、僕高校生。そんな店に入れるわけないじゃん」
『変装したらいけないか?』
「むしろ中学生に間違えられる僕が大人に?」
言ってて悲しくなる秀一であるが、事実だから仕方ない。
背は低いし童顔だし。
『……可愛さが仇となるとは』
あからさまにまた落ち込む奨。喜怒哀楽が激しい。よろよろとよろけ、壁に手をついてがくりと頭を垂れた。リアクションがコントみたいだ。
「というか!バレたり注意されなくても、そんな恥ずかしい服を選んだり、レジに持ってくとか耐えられないから!」
想像しただけで頭痛がした。
女の子用の服をレジ店員に差し出したら、どんな反応をされるか。
そもそも、普通の服を買いにいくのですら秀一は苦手なのだ。
奨は秀一の恥ずかしがりをわかっていない。
落胆する奨を見ていると可哀想になる。
自宅には一応母親の服ならある。しかしそれを着ろと言われたら流石に断るつもりだった。
母親に変態行為の片棒を担がせたくないし、息子が留守中に自分の服を着ていたなど知ったら倒れる。
いや、そもそも幽霊に取り憑かれてエッチしてますを知ったら倒れるだけでは済まないか…
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