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第94話
「そうだ……」
おいでおいでと、奨をパソコン前に手招きする秀一。
検索ワードにはちょっと考えてからアダルト、コスプレ、と入れた。
学校で女の子みたいと馬鹿にされ、性的な悪戯までされた秀一だ。自分がこんなことをしているのがとても不思議な気持ちである。
奨のためだから。
理由は多分、それしかない。
幾つかのサイトが該当した。
秀一は男としては細身だし、身長も低い。女性用でもサイズは問題ないだろう。
『なるほど、通販か!!』
店舗に行けないなら通販を利用したらいい。
「これなら匿名で買えるし、今は両親もいないし」
アダルトサイトはエロ動画等なら観たことはある。秀一だって年頃の男の子なのだから。しかし、恋人、ましてやエッチの相手もいない秀一は初めてアダルトサイトを開いた。
スク水、ナース、アイドル風ブレザー、セーラー服…なんでもありそうだ。
『セクシーな下着もあるんだな』
奨がマウスを握る秀一の手の甲に掌を添える。こういうさりげない触れ合いに秀一はドキドキしてしまう。
「下着は流石に恥ずかしいから、やだ」
女の子の下着なんて身に付けたらはみ出しちゃうじゃないか。
『なら、これはどうだ?』
いくつかの衣裳から奨が選んだのはーーメイド服である。
バルーン袖の黒のワンピースにフリフリ付きの白エプロン、白レースのカチューシャと白ストッキングもついたメイドなりきりワンセット。
「こ、これ?!」
『ご主人様と呼んで、ご奉仕してくれないか?』
奨が秀一の手を導き、購入ボタンをカチリ、と押させてしまう。
「あッ!」
『楽しみだ』
「か、勝手に!このエロ教師!」
『悪いか?』
彼の太い腕に秀一は頬を寄せた。
猫みたいにすり寄る。
***
「はい、荷物です。ハンコかサインください」
玄関先に宅急便のお兄さんが来ている。
アダルトグッズなんて初めて買ったので、宅急便を受け取る時すらドキドキしてしまったが、届いた箱には、生活用品その他と書かれていた。
よって、宅急便のお兄さんは何も気付くことなく爽やかな笑顔を残して帰っていった。
要するに偽装は完璧。
後は秀一が恥ずかしさを堪えて着るだけだ。
食事の時間が迫ると秀一の緊張は嫌がおうにも高まる。
実は、秀一が女装をするのは初めてではない。
華奢で女顔の秀一は小さな頃からそれをネタにいじめられてきた。
小学校の時は女の子の役を宛がわれてスカートを履かされた。
あの時の恥ずかしさと屈辱はよく覚えている。
メイド服のワンピースを広げると記憶がまざまざと甦る。
みんなが笑っている、秀一を。
「う……」
少しだけ泣きそうになった。やっぱり今からでも奨に嫌だ、無理だと伝える?!
「でも、奨さんは楽しみにしてるんだ。それに、僕のことを可愛いって……」
笑ったのは他人だ。だったらどっちを信じる?ーー恋人である奨に決まっている。
まずストッキングから履こう。
座った姿勢でくるくると巻いた白ストッキングに脚を通していく。
絶対領域までの長さ。
「履きにくいな」
女子はいつも苦労してるんだな、と思った。そして、今更ながら男性下着、つまりトランクスとストッキングの違和感に気付く。
これ、下着も買わなくちゃいけなかったやつ?!
「どうしよ…えーい、脱いじゃえ!」
トランクスは脱いでポイする。
どうせ脱がされるのだ、結局。ならば履いていなくても構わないだろう。
ノーパンに白ストッキングのみというとんでもない格好になった。
奨がこの場にいたら、秀一は今すぐ押し倒されたに違いない。
「次はワンピース…」
秀一は黒のワンピースに袖を通した。腰周りがきついかな、と思ったがすんなりと着れた。
「やっぱり少し痩せたかな?」
最近むしろ食欲が増して食べすぎているぐらいなのだが。
首を傾げながらも着替えを続ける。
ふんわりした袖、フレアのミニスカがひらりと揺れる。
動きに気を付けなければノーパンがばれてしまいそうだ。
ワンピースの上にエプロンを身につけて後ろのリボンをキュッと結ぶ。
頭にレースのカチューシャをつけたらメイドの出来上がりだ。
姿見を覗くと、いつもの自分とは違う自分がいて、秀一はドキドキした。
普段の格好より女装のが似合っているような…?
奨がベッドで待っている。
もう覚悟を決めて見せるしかないだろう。
彼が興奮してくれたら嬉しい。
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