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第108話
「試練を与えよう」
涙を拭い、暫くするとエーレンフリートは落ち着いた。
先程まで見せた泣き顔などなかったようにしている。
「にゃんだよ試練って」
連はまだエーレンフリートに対して攻撃的だ。
猫語にエーレンフリートは顔をしかめた。正直、二人の言葉は秀一からしたらどちらもおかしい。
「秀一くん、君は奨とずっと居たいんだよね?」
「はい…」
「その覚悟を見せて欲しいんだ。君が選んだ道がどれだけ大変かをね」
顎を撫でながら挑戦的な視線を投げてくるエーレンフリートは、すっかり調子を取り戻したようだ。
「なんでもやります。それであなたが奨さんを天国に送るのを諦めてくれるなら。
それで、何をすればいいんですか」
「一週間セックス断ちをして貰う」
「え?!」
秀一はソファーからずり落ちそうになった。眼鏡は外れかけた。
「そりゃ神代先生と秀一さんは恋人同士だから、しんどいにゃ…」
『ーー俺がシュウにかける負担を減らせるか、という話か?』
奨にとっては断食状態であるが。
「霊は人間の生命エネルギーを分け与えて貰い、活動出来る。逆に言えばそれがないと寝たきりのような状態になる。
奨は君の中から出てこられないだろう。
君は、その状態を堪えられるかな?」
つまり、秀一は奨に頼らない、奨はエネルギーに頼らない、そういう状態を堪えろ、という試練である。
「神代先生餓死して消滅しちゃわないにゃ?」
「体内にいれば大丈夫だ」
そもそも霊は死んでいる。専門家であるエーレンフリートが保証するのだから大丈夫なのだろう。
「わかりました。やります」
『過激なダイエットだな。良いだろう』
二人は納得を示す。その様子にエーレンフリートは頷き、一週間後に、と言い残して去っていった。
問題は、夏休みがとうとう終わるということだ。
つまり、学校が始まる。
そして秀一の両親が海外から帰宅する。
様々な変化に堪えなくてはならない。秀一は、独りで。
「秀一さんはともかく、神代先生が我慢出来るかが俺は心配だにゃ」
『人をエロの権化のように言うのは止めてくれないか?』
奨が顔をしかめたが、秀一は連の言葉に強く頷く。
明らかに、食事という目的以上に奨は秀一を求めている。
それは勿論恋人だから、好きだからであるが、コスプレをさせたり過剰に変態で好色な部分が見受けられる。
『食事を楽しんで何が悪い』と開き直る奨だが、この試練をどう堪えるのだろう。
二人の不安を他所に、一週間が始まった。
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