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第110話
秀一の態度が変わると面白いように周りも変化した。いじめられている秀一を見てみぬふりをしていた同級生たちが話し掛けてくるようになり、いじめっ子たちは秀一を避けるようになった。
引っ込み思案で話すのが苦手だった秀一だが、YouTuberとしての経験と自信から、すらすらと同級生と話すことが出来た。
「今まで助けられなくてごめん」
そう言ってきた同級生に秀一は首を振る。きっと昔の自分なら、自分だってそうしたろうから。
***
一日目の学校を終えて帰宅すると秀一はドッと疲れていた。
しかし、それは心地好い疲労であった。
自室にてベッドに横になる。
「……やっぱり奨さんが僕を変えてくれたんだ」
すると、奨が体内から答えた。
『それは違うよ、シュウ。俺が出逢った時にシュウはもう、YouTuberという挑戦を初めていたじゃないか。君は、自分で自分を変えたんだ。弱い自分を乗り越えたんだ』
「そうかな…」
『いいか、シュウ。人に人を変える力はない。影響はあるがな。変えられるのは自分だけなんだよ。周囲は何も変わっていなかったろう?』
思い出せば確かに、いじめっ子たちはそのままだった。しかし秀一が自分を変えたから、その影響が出たのだ。
秀一は目を閉じる。自分の努力が実ったこと、それを奨に認めて貰えたのが嬉しかった。
微笑みを浮かべる。満ち足りた気持ちを感じた。
ああ、今奨が実体化して抱き締めてくれたら最高なのに。
『……俺がいなくなっても、君はもう大丈夫だろうな』
「え?!」
突然の物言いにビックリして、秀一は跳ね起きた。
「や、やだよ、奨さんがいなくなるとかやだ!!」
狼狽し青ざめて叫ぶ。それは子供そのものだ。
奨が見かねて実体化した。そして秀一を抱き締める。
『案ずるな。いなくならないよ、俺は。どこにも』
「で、でもさっき」
『シュウはそれだけしっかりした男になった、と言いたかっただけだ』
「……ありがとう」
本当は抱き締めて貰いたかったし、甘えたかった。だから嬉しくて秀一はしがみつく。
恋人の逞しい胸板に顔を埋める。
『……セックスなしは拷問だな』
ぼそりと呟く奨。
「おなか、すくから?」
答えはわかっているのに聞いた。
奨は微笑んで秀一をもう一度強く抱き締めた。
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