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第111話
一週間はあっという間に過ぎた。二人はエーレンフリートとの約束を守り、奨は断食を続けた。
流石に奨は消耗し、秀一の中から出てきて実体化することが出来なくなったが、なんとか試練をクリアすることが出来た。
そして約束の日を迎えた。
しかしーー
エーレンフリートは来なかった。
LINEにどんなに連絡しても返事がない。秀一は首を傾げたが、LINE以外の連絡先は知らないにどうにも出来ない。
「どうしたんだろ、忙しいのかな?」
『さあな。彼は退魔師、陰陽師、ゴーストスレイヤーだ。
仕事に勤しんでいるのかもしれない』
秀一は思い出す。エーレンフリートが女の幽霊、美代を消滅させた仕事ぶりを。
もし奨が地上に残ること、秀一に憑依し続けることを許してくれても、彼は死狂を見ればあんな風にみんな消滅させるのだろうか。
「元々は、人間なのに」
霊は苦しんでいる。罰するのではなく救ってあげたい。
秀一はハンディカメラを撫でる。
YouTuberとして、なんとか霊の存在や苦しみを伝えていけないだろうか。
しかしそれはーー酷く甘い考えだったと後に秀一は知る。
***
「断食、もうやめて良いよね?だって一週間経ったし」
『抱かれたいのか?シュウ』
体内から聞こえた声に秀一はぷうと頬を膨らませる。
「そんな風に言うほど元気があるなら後一週間ぐらい断食しても平気なんじゃ?」
『おいおい、意地悪は止してくれ。……腹ペコなだけじゃないんだぞ。シュウが欲しくて、抱きたくてたまらないんだ』
なんて甘ったるくて刺激的なことを言うのだろう、彼は。
秀一はでれでれしながら答える。
もう以前のようにツンツンしたりはしない。
「僕も…奨さんとエッチしたい。二人でいっぱい気持ちよく
なりたいな…」
もじもじしつつ気持ちを素直に伝える。
それが恋人同士にはとても大切であるのを秀一はもう知っていた。
奨が実体化する。二人は見つめあい愛しげに視線を絡める。
互いだけを瞳に映す幸せな時。
『シュウ』
「奨さん…」
唇が触れ合うギリギリーー
突然、秀一の窓から突風が吹いた。カーテンが荒れ狂う波のようにはたはたと暴れる。
「なッ…?!」
秀一は信じられないものを目にする。
窓の外に何かがいた。人だ。人の白い顔がぼんやりと虚空に浮かんでいる。
だが、秀一の部屋は二階だ。
「え?!」
しかもその顔には見覚えがあった。あの廃校舎にてエーレンフリートに消滅させられたはずの、美代だ。
なぜ美代が?!
『奨……奨はどこ?』
虚ろな声が響く。ざわざわと顔の周りに蠢いている黒々としたものは大量の髪の毛だ。
そう、美代は長い髪の毛を土台とし、二階まで身体を持ち上げているのだ。
美代の姿は、今まで見た中でも一番醜悪で形容しがたい霊だった。
目はつり上がり血の色、口は顔を上下に二つに分けんばかりに避けている。その唇からは涎を絶え間なくだらだらと垂らしているのは、欲望の現れだろうか。
彼女は髪の毛でぐるぐる巻きにした男を抱えている。
ぐったりした姿だが、金髪と服装からエーレンフリートであるのは間違いない。
奨が唇を噛む。
『あの時、エーレンフリートの術法から彼女はこっそり逃れていたんだ!消滅させられたふりをして、密かに彼に憑依したんだな…!!』
霊は磁場から離れて移動できない。生きた人間に憑依しない限りは。つまり、美代がここに来ているのはそういう事だ。
『死狂なんて生易しい形状じゃない。これは…この禍々しい霊波動は悪霊だ…!!』
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