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第10話

-そのホテルは、普通のビジネスホテルみたいな所だった。 てっきり、ラブホテルみたいな所へ行くと思っていたのに………。 「…流石にね、あ~いった所に行くと…いかにもって感じだし……樹生、嫌でしょ?」 (…確かに…) ネオンチカチカのラブホテルに連れて来られたとしたら、建物を見ただけで回れ右して帰る自信がある。 それよりも。 俺は部屋の中のベッドに、視線がくぎ付け。 「…緊張してる?」 治朗に聞かれてギクシャクと首を左右に振りながらも、やはり視線はベッドから離れない。 「……やっぱり緊張しているんだ。大丈夫だよ、全てオレに任せておけば…樹生は寝てるだけでいいから」 ………寝ているだけでいいといわれても………ベッドがひとつだけって………。 それもこの大きさ………ダブルベッド……。 男二人でひとつの部屋………それもダブルベッドって………。 ラブホ代わりに来ましたって言っているようなものじゃないか………? 俺は先程、治朗にカードキーを渡しながらチラチラと俺を横目で興味深そうに見ていた受付の女性を思い出した。 (これのせいで見ていたのか………) 顔が赤くなる。 そうと知っていれば、あの場所で回れ右して逃げたのに。 「……確認だけど、ここまでオレについてきたって事は、そういうつもりって事でいいんだよね?」 ニッコリ笑った治朗の手が俺の服のボタンに伸びてきて……。 俺はその手をはね除けると自分で服のボタンを外し始める。 「…じ…自分でできる」 「…いいの?」 「………え?」 「自分で服を脱ぐと、合意って事になるよ?」 (……合意………) 思ってもいなかった事を言われて、ボタンを外しかけた俺の手が止まる。 「本当はオレとしてはそっちの方が助かるんだけどね………後であれは無理矢理だった……なんて言われたら困るから……でも、樹生は……言い訳、できなくなっちゃうよ、いいの?」 (…言い訳…誰に…?彰に…?それとも自分に…?) ………今更、確認? ここまで来て? 治朗は意地悪だ。 ここへきて、そんな事を言うなんて。 ここまでなるべく思い出さないようにしていた彰の顔が頭に浮かぶ。 「………でも、ま」 ボタンを外そうとして止まったままの俺の手を、治朗の手が掴む。 「オレに無理矢理襲われたって言っても、誰も信じないけどね」 そう言うと、治朗はそのまま掴んだ俺のシャツを左右に広げた。 ブチブチブチ………ッ!! 俺はいきなりの事に抵抗するのも忘れてされるがまま。 無理矢理広げられたシャツからボタンが弾け飛び、転がる。 「……いいよ、オレのせいにしなよ」 治朗に下から見つめられ、俺は生唾を呑み込んだ。 「その方が楽になるんでしょ、樹生は………」 その時の俺は、まるで蛇に睨まれた蛙。 「………ずるいよな」 足が竦んで、動けなかった-。

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