43 / 54

師範の願いを(俺)

俺と話していた師範は、ピタリと動きを止めると、隠し切れないほどの絶望を浮かべて涙を零した。 「せ、師範っ!?」 俺は慌てて師範を抱き締める。 ホロホロと、とめどなく溢れる涙を拭って、また滲む涙を拭って……。 「眼鏡、外していいか?」 師範が小さく頷く。 師範はこんなに……、俺に応えられずにいる事を心苦しく思ってたのか。 師範が『ギリルがしたいと思う時にはいつでも言ってくださいね。たくさん練習した方が良いですから』なんて可愛い事を言うから、あれから俺は毎夜のように師範を求めてしまった。 けど、そこへ触れようとする度、師範はパニックに陥る。そして、師範はその度俺に何度も謝っていた。 ……こんな事くり返してちゃ、気に病んで当然か。 「ごめんな、師範……」 俺は、腕の中で肩を震わせて泣き続ける師範に、心から謝罪する。 「俺、しばらく我慢するから。もっとゆっくり……焦らずやろう」 師範のためなら、俺は何年だって我慢しよう。 そう決意を固める俺を、師範は涙で滲む瞳で見上げた。 「……ゃ……」 「ん?」 「……い、嫌です……」 「んん??」 師範は、駄々をこねる子どものように、ふるふると首を振った。 「わ……私、は……」 「や、別にやめようって話じゃねーから。ただ、ゆっくり……」 「私は、今、すぐ、してほしいんですっ」 「!?」 「……お願いです、ギリル……」 闇色の瞳を潤ませて、師範は俺のモノへと手を伸ばす。 師範の細い指がそっと絡められるだけで、俺のそれは簡単に質量を増してしまう。 「せ、師範……」 困惑する俺に、師範は切実なまでの懇願を浮かべて、俺を見つめてねだった。 「今すぐ私を……、ギリルのこの剣で貫いてください……」 ぎゅんと音が聞こえそうなほどに、俺の中の血という血が、師範に触れられているそこへ集まっていくのが分かった。 今度こそ勘違いじゃない。本当に、師範が俺を求めてる。 それが嬉しくて、苦しい。 バカな俺にだって分かってる。 師範にとっちゃ、相手は俺じゃなくてもいいってことくらい。 自分を愛してくれる奴なら、誰だって……。 でも俺は、師範じゃなきゃダメなんだ。 他の誰だって、師範の代わりになんかならない。 少なくとも、師範に人になった途端自殺する気がないってんなら、今はこれで十分だろ? 「ギリル……」 師範が、薄い唇を辿々しく俺に重ねてくる。 それに、師範が本当に『俺が必要とする限り』側にいてくれるなら、それは一生と同じ意味じゃねーか。 俺は、導き出した答えに口端を上げると、俺を求める師範に応えた。 師範の頭を引き寄せて、深く深く口付ける。 「ん……、ふ……ぅ」 俺がその肌を撫でる度、師範は全身をほんのり朱く染めた。 「師範……」 首筋に舌を這わせれば、愛らしい声を漏らして身を捩った。 「ぁ、……っ、ぁあ……っん……」 「触るからな」 とろりと緩んだ瞳が俺を見上げる。が、そこに触れた途端、闇色の瞳には恐怖が滲んだ。 「……っ!」 いつものように、師範の全身にギュッと力が入る。 「師範……」 俺は宥めるように肩を撫で、銀の髪がかかる額に口付ける。 「大……丈夫……です……」 震える師範の言葉に、俺は指先にほんの少しだけ力を込める。 俺の指は、ほとんど抵抗を感じることなく第一関節ほどまでを師範の内へと隠した。 「あっ! ぁああっっ!」 目を見開いて悲鳴を上げた師範の体が、ガクガクと大きく揺れる。 「師範っ」 俺はすぐに指を引き抜くと、師範を包むように抱き締めた。 「は……、ぁ……。っ、や……やめ……」 「大丈夫だ。もうしねーし。もう今日は……」 「っ、やめないで、くだ、さい……っ」 ……っ!? 俺の頬を、師範の両手が左右から包んだ。 「ギリル……お願いです……やめないでください……」 師範は、荒い息の合間から、それでもはっきりそう言った。 「い、いや、でも師範……」 俺が師範から身体を離そうとすると、師範は俺を追うようにして俺の手を取った。 「……ギリル……」 師範の手が、俺の手をもう一度そこへと導く。 「貴方のが、欲しいんです……」 縋り付くような師範の声と共に、俺の指はもう一度師範の内へと侵入した。 「ゔ……っ、……ん゛っ」 くぐもったような声は、俺の首元から聞こえた。 師範は俺の首にしがみついて、必死に声を漏らすまいとしていた。 「師範……」 そこまでして……。 初めて感じた師範の内側は、普段ひんやりした師範の肌とは比べ物にならないくらい熱かった。 師範の熱に触れて、俺の中心に熱が宿る。 ……師範が望むなら。 俺は、師範の願いを叶えるために生きてきた。 だから、今だって。 師範が願うなら、そうするだけだ。 ただ、師範の願いが、叶うように……。 「師範、分かった。もうやめない。だから、無理に声抑えなくていいよ」 「っ、ギリル……」 俺を呼んだ師範の声は、まるで助けを求めているようだった。 「大丈夫。ちゃんと最後までするから」 俺は自分の身体の上に師範を乗せるようにして、師範を抱いたまま仰向けになる。 「その代わり、やめてほしくなったら、俺を叩いて知らせてほしい」 空いた片腕で師範の背中をゆっくり撫でると、師範の身体からほんのわずかに緊張が解けた。 「師範に叩かれるまで、俺、やめねーからな」 「はい……お願いします……」 師範は嬉しそうに答えて、俺の胸に頬を擦り寄せる。 なんだよ可愛いな……。 俺は口元が緩まないように頬に力を込めながら、師範の内側で息を潜めていた指先を、ほんの少しだけ奥に進めた。

ともだちにシェアしよう!