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混ざり合う、闇と光(私)
「ぁ、あ゛っ、ゃ、ぁああ゛、っっゔゔっっ、ンンンンンっっ!!」
あんなにずっと、ずっとずっと昔のことなのに。
ギリルの指が進む度、どうしてもあの日の事が、あの日の感触が。
あの時の感情が溢れ出して……。
バチッと激しい音がして、私の背を撫でていたギリルの腕が弾かれたことを知りました。
「っ、あ、ごめ……っ、ごめんなさい、ギリル……っ」
ギリルは躊躇うことなく、痛んだはずの手で、私の頬に溢れる涙を拭ってくれました。
「ん。いいよ」
ギリルはさらりと答えて、私の瞼に優しく口付けます。
「ギリル……」
私はどうしようもなく、ギリルに縋りました。
お願いです。ギリル。私を愛してください。
私をこの終わらない闇から救ってください。
今、この時だけでかまいませんから、どうか、今だけは……。
私は、肌に蘇る感触と、耳元でこだまする嘲りの言葉の中で、一心にギリルの名を呼び続けました。
ギリル、私をこの世界に置いていかないでください。
もう一人きりは……、貴方のいなくなってしまった世界で、一人生きるなんて、私には耐えられないんです。
「師範、入れていいか?」
ギリルの声に、私は必死で頷きました。
ギリルの声が耳に届いた一瞬だけは、男達が私を蔑む言葉も遠く聞こえました。
「ギリル、お願……、っ、私、を、呼んでくだ、さ……っ」
「師範、大丈夫。俺がいるから。ずっと、いるから。ゆっくり、息をして。力を抜いてて……」
「ギリル、ギリル……っ、や、ぁ……っ、ゔゔぁっ!」
バチっと激しい音がして、ギリルの小さな呻きが聞こえました。
「ごめ……ごめん、なさ……っ、ぅ」
怖くて怖くて、身体が動かなくて、目も開けられなくて。
貴方の怪我の具合さえ、確認もできなくて……。
ただ不甲斐なさと申し訳なさに、涙だけがとまらなくて。
「大丈夫。俺鍛えてるから。師範はもう、謝んなくていいよ」
「ギリル……」
ギリルの声が聞こえる度、ギリルが優しく背を撫でる度、私は繰り返し救われて。
けれど内側を侵される感触に、その度、暗闇に引き戻されて。
「ぁ、あっ、ギリル……、そばに、いて、くださ……」
「いるよ、ずっと。師範の事、ずっと離さねーから」
「ギリル……」
貴方がいつもそばにいてくれるから。
貴方のいない部屋が、寂しくて、堪らないんです。
貴方が眩しく輝くから、澱んでいたこの世界さえ、嘘みたいに美しく見えてしまうんです。
だから、どうか、私も連れて行ってください。
怖くても、痛くても、かまわないから。
私を置いて、行かないでください……。
あの日と今がぐちゃぐちゃに混ざって、心も身体も揺さぶられて、自分が今何をどうしているのかもわからなくなって。
ただ、心が必死でギリルを求めていて、ギリルに、愛してほしくて、たまらなくて……。
「師範、イクよ」
待ち望んだ言葉に、心が大きく震えました。
「ギリル……っ」
どろどろに澱んだ私の内で、ギリルが大きく膨らむ様だけが、鮮明に伝わりました。
全身でギリルにしがみついても、私がその衝撃に耐えることは、到底できませんでした。
「っ、せんせ、っ」
下腹部に広がった熱が、黒く染まった私の全てを白く溶かしてゆきます。
心も、身体も。
ギリルの愛が広がって、染み込んで、私の一つ一つを作り替えているような、そんな感覚に、私の頭も思考を終えようとしていました。
ああ、これで私も……。
貴方と、一緒に……。
……逝けるんですね……。
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