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俺だけの、師範(俺)
「師範」
俯いてしまった師範は、俺の声にびくりと肩を震わせただけで、顔を上げようとはしなかった。
「師範、大丈夫。顔を上げて……」
俺はなるべく優しく囁いて、その顎をそっと持ち上げる。
師範はホッとした様子を滲ませて、ようやく俺を見つめた。
「ギリル……」
あの日も、師範は俺のことを必死で呼んでいた。
恐怖に震えて目も開けられないまま。
それでも、俺だけを信じて、頼りにしてくれたんだ。
そいつに騙された師範が、俺の言葉をすぐには受け入れられないのだって、わからなくはない。
俺が師範を好きだと言う気持ちも、自分が作り出してしまったのだと悔やんでいる、その理由も分かった。
何年経っても、忘れられないのは当然のことなんだろう。
頭では分かってる。
それでも、俺は師範の中に、師範を騙した男がずっと居座ってるって事が許せなかった。
俺は師範に優しく口付ける。
優しくする以外の手段を、俺は知らなかった。
きっと、ウィムや元魔王や、その男なんかは他のやり方も色々知ってんだろうな。
そう思ってしまうと、余計に腹が立った。
……くそ、せっかく師範が勇気出して話してくれたってのに、俺が腹立ててどうすんだよ。
とろりと口を開いた師範に、俺は深く口付ける。
師範の心を、全部俺で埋め尽くすように。
「……ん……っ」
師範の微かな声は、俺の身体に火をつけた。
俺は、自分の火を移すように師範の身体を愛撫する。
一枚、二枚と服を剥いでも、師範はされるがまま俺をうっとりと見つめていた。
ああくそ、可愛いな。
こんな……、こんな顔を、そいつにも見せてたのかよ。
「なぁ師範、もう忘れろよ。師範を騙した奴のことなんか……」
思わず漏らしてしまった本音に、師範はピタリと動きを止めた。
「私も……できるなら忘れたいと思っています。けれど……」
俯いた師範が、白い手でそっと自身の下腹部を撫でた。
その仕草が、まるでその男の痕をなぞったように見えて、俺は我慢できなくなった。
「っ、じゃあ、俺が忘れさせるから!」
「ギリル……?」
俺は師範にのしかかると、そこへと手を伸ばす。
「これからはずっと、俺だけが触るから」
俺の指に怯えるように揺らされた師範の白い肩を撫でて、慰めるように口づける。
「俺が師範を、もっとちゃんと、良くするから」
指先に軽く力を込めれば、柔らかな師範の内へと吸い込まれた。
「っ、あ……っ!」
師範の瞳に恐怖の色が滲む。
「だから師範は俺の事だけ、覚えてて……」
祈るように、俺は師範の瞼に口付ける。
「あ……、ギリル、の……」
「そう、俺の指。……どんな形かわかる?」
言いながら、ゆっくりと指を進める。
「っ、ぁ、んんっ……」
師範の声に、ほんの少しだけ恐怖と違う色を感じて、俺は内心舞い上がる。
「せんせ、俺の指、どんな風に感じてる? 教えて」
「ぁ、ギリルの……、ギリルの、ゆび……、っ」
師範は赤く染まる頬に、淡い青の混じった闇色の瞳をうっとりと細めて俺を見つめていた。
これはダメだ。俺の理性が耐えられそうにない。
懸命に俺のを感じようとしてくれてる師範がとんでもなく可愛くて、俺は誘われるままに奥へと進む。
「っ、ギリルの、ゆび……、ぅ……。ぁっ。お、く……に……っ」
震える師範が俺の首に必死でしがみついてくる。
師範の熱い内側もまた、同じように俺の指へ絡みついていた。
俺は根元まで収めた指をゆっくりと抜き差ししながら、丁寧に師範の内側を探った。
「ぁ、あ……っ、ん……っギリル……っ」
師範の声が次第に甘く蕩けてゆく。
耳から入る師範の甘い声に、カアっと頭に昇ってくる血と、反対に腹の方へ集まろうとする血が、俺の身体の中で迷っているみたいだ。
俺は深く呼吸して、なるべく自分を落ち着けながら、師範の内を順になぞってゆく。
「ぁあっ!」
ビクリ、と一際大きく師範の腰が跳ねた。
確かめるように俺はそこをもう一度撫でる。
「んっ」
確かにそこは、押さえた奥に他とは少し違った弾力が感じられた。
「師範? ここ、気持ちいいのか?」
「ぁ……」
俺の言葉に、とろりと潤んだ瞳が俺を見つめる。
師範のふるふると揺れる銀色のまつ毛と上気した頬は、俺にそうだと答えていた。
「ここだな。ん、覚えた」
俺は初めて知った師範のそこを、忘れないよう繰り返し確認する。
「ぁ、んっ、ぅ、あ、ぁあんっ」
その度、師範は愛らしい嬌声をあげた。
「せんせ……。もっと、その声聞かせて……?」
俺は二本、三本と少しずつ指を増やしながら、夢中でそこを責める。
師範の身体がビクビクと跳ねる。
「っ、あっ、ぁんっ、や、ぁあっ、そこ、ばっかり、っ、や、ぁ、ああああっっ」
追い詰められてか、身悶える師範の声が裏返った。
硬直する身体に、ぎゅうっと指が絞られて、師範が達したのだと知る。
見れば師範の前からも、ゆらりと立ち上がりかけたその先からポタポタと雫が伝っていた。
師範が仰け反らせた白い首を舌でなぞると、師範の薄い唇から、甘い吐息がこぼれた。
なんだか夢みたいだ。
こんな風に、俺の手で師範を喜ばせることができるなんて。
「可愛い……。師範、大好きだ……」
とろりとした瞳をゆっくり瞬かせて、師範が微笑んだ。
「ん……、ギリル……私も……」
そこまで告げて、師範はサッと顔色を変える。
ああ、これも師範には荷が重いのか。
「いーよ。無理して言わなくて。そう言おうとしてくれたってだけで、俺すげー嬉しいから」
今、師範が伝えようとしてくれた言葉は、きっと、今までの「好き」とは違う意味だったんだろう。
そう思うだけで、俺は天にも昇りそうな気分だ。
「ごめ……なさい、ギリル……」
「謝んなくていーって。それより、入れてもいいか?」
俺が笑うと、師範もホッとした顔をして、少し恥ずかしそうに頷いた。
俺は、キスと愛撫で師範の気を逸らしつつ、その内にそっと滑り込む。
既に十分慣らされたそこは、俺を静かに受け入れた。
「あ……っ、ぅ、……」
俺のモノに圧迫される恐怖からか、師範の身体に力が入る。俺は咄嗟に師範の胸の突起を摘んだ。
「ぅあ、んっ」
甘い声をあげて、師範がびくりと跳ねる。
師範のこめかみに、瞼に、次々唇を落としながら俺はゆっくり囁いた。
「大丈夫。大丈夫だよ、師範。力を抜いて」
師範は不安の滲む瞳で俺を見上げながらも、従順に細く息を吐く。
「ん、そのままゆっくり息をして……」
胸を摘んだ手で師範の身体をなぞりながら、俺は自身の先端を探った。
師範が昔の記憶に引かれないように。あの男のことを考えないように。
ずっと話しかけ続けるしかない。俺のことだけを考えてくれるように。
「ほら、ここ。せんせの中に俺のがここまで入ったの、分かる?」
俺の指がトントンと師範の下腹部を示すと、その刺激は鈍く内側へ響いた。
「んん……っ」
師範の顔がカァッと赤く染まる。どうやらこれは恥ずかしいらしい。
「師範の中、あったかくてすげー気持ちいい」
そう言って笑うと、師範も嬉しそうにふにゃりと微笑んだ。
「嬉し……ぃ、ギリル……」
力の抜けたその笑顔は、どこか幼なげで余計に可愛い。
師範は嬉しいと繰り返して、俺に抱き付いた。
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