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うわ言と、誓いの言葉(私)
私の身体でギリルが喜んでくれている。そう思うと身体の内側にじわりと熱が滲みました。
そこをギリルが擦る度に、甘い感覚が積み重なります。
「ん、っ、ぁ……ギリル……っ」
気付けば私はギリルの首元にしがみついていました。
まるで、私の身体が勝手にギリルを求めているようでした。
「師範、俺のが中で動いてるの、感じる?」
ギリルの声は優しく私に降り注いで、私の内に直接入り込むようで、私は自然とそれに答えてしまいます。
「ぁ、あ、ギリル、の、っ……ん。なか、うごい、て……っ、ぁんっ」
ギリルの動きは少しずつ大きく速くなってきて、私は身体だけでなく心まで揺さぶられてゆくようでした。
「どこがいい? 師範の気持ちいいとこ、教えて?」
息を継ぐ合間に繰り返し口付けられて、次第に頭がぼんやりして、ふわふわとした心と心地よい温もりの中で、ギリルと繋がったところだけがひどく敏感に、突き刺さるほどの快感を伝えていました。
「ぁ、ギリル……。ギリル、ぅ。気持ち、いぃ……です、っ、ぁぁっ、そ、こ……っっ」
「ここ?」
「あぁっ、そ、そこ、ぅ、あっ、や、ぁ、んっっ、ぁあっ」
ギリルが触れると、もう、どこもかしこも感じてしまって、私は絶えず嬌声を上げ続けていました。
「俺の、気持ちいい?」
涙で滲むその奥で、笑うギリルが嬉しそうに問いかける、から……。
私、私……は、……。
「気持ち、いい……っ、ギリルの、気持ち、いぃ……っ、ぁあ。ん……っ、そこ、ぁあっ! いいっ、そこいい、ですっ、ぅ」
「せんせ、すげー可愛い……」
ギリルが荒い息を吐きながら、私に繰り返し口付けます。
ぁあ……ギリルの瞳が、私だけを見ています……。
「俺の形よく覚えて。もう、俺としかしないで」
「はい……、ギリル……、っ、ギリルと、だけ……っ」
ひくひくと蠢く内側が、ギリルの形をくっきりと私に伝えます。
ギリルの……これが、ギリルの形……。
私を、人に戻してくれた、ギリルの……。
ぐい、とギリルの両手が私の腰を引き寄せて、ぁ、深、ぃ……っ。
「や、あ、っ、も……ぅ、また……っ、また、イっちゃ、ぅ……っ」
お腹の奥が熱くて、ギリルでいっぱいで、次々に寄せる快感は、もう限界を超えてしまいそうで……。
「ギリルっ、ギリル……っっ」
私は必死でギリルの名を呼んでいました。
「俺も、イキそ……」
少しだけ苦しげなギリルの声が、私をさらに追い詰めます。
まるでうわ言のように私の口から溢れる言葉は、もう私の意思を離れていました。
「あ、あっ……っ、ギリル……、ギリル、好き」
「っ、師範……っ俺も、師範が好きだ」
「大好き、ギリル……っ、もっと、奥、に……っそこ、もっと、きて、くださ……っ」
あぁ、私のナカで、ギリルのが、っ、大きく……っ。
「……っ、イクよ」
ドクン。と大きく脈打つ感触に誘われて、私の内側がギリルを必死で抱きしめます。
「ぁ、あっ。ぁあぁぁぁああぁぁっっ!!」
ギリルの熱が、私の内に叩きつけられて。
ぁぁ、ナカが、熱くて……溶けそう、です……。
ゆるゆると余韻を残していたギリルが動きを止めても、私の内側はギリルをなかなか離そうとしませんでした。
「ん、んんっ、ぅんんっっ」
ギリルの熱は私の奥に留まって、私にどうしようもないほどの快感を残していました。
「師範、まだイってんの? すげー可愛い……」
愛しげな囁きと共に、私のこめかみをギリルの唇がそっと撫でました。
ギリルの指が、私の額に汗で張り付いた髪をそっとよけています。
胸にじんと沁み渡る確かな喜びの感情。
これが、幸せなのだということを、私はもう分かっていました。
ギリル……。
私に、幸せをもう一度教えてくれた人。
幼い貴方の小さな手に、輝く眼差しに、ぐんぐん成長してゆくその姿に、私はどれほど励まされたでしょう。
貴方に与え導く日々は、一日があっという間で。
昔のこと忘れてしまうほどに忙しく楽しい毎日でした。
「っ、……ギリル……」
まだ詰まる息の合間に、私はギリルの名を呼びます。
「ここにいるよ」
ギリルは私に覆い被さるようにして、答えました。
私に体重をかけまいとしながらも、ぴたりと合わされた肌。ギリルの温度に、私の内側がもう一度震えました。
「……ぁ……」
ギリルの指が私の髪を優しく撫でます。
太く逞しい彼の腕に頬を寄せれば、ギリルは少しだけ体を起こして、私を愛しげに見つめました。
今では私よりずっと背も高く、強く頼もしい青年へと成長したギリル……。
精悍な顔立ちも、切長で涼しげな目元も、ぶっきらぼうな態度も、私にだけ見せる優しさも。
全てが愛しくてたまらないのだと、もう、認めざるをえませんでした。
私はこの気持ちを、自分でさえも気付かないほどに、頑丈に封をして、ずっとずっと押し込めていたのです。
もしかしたら、初めて会ったあの日から……。
彼をひと目見た時から、私は貴方の輝く魂とその姿に、とうに心を奪われていたのかも知れませんね。
「ギリル……」
私の口からその名が溢れると、ギリルが小さく微笑みました。
「せんせ……、好きだよ」
何度言われても、その度、喜びに胸が震えます。
微笑んだ私の頬を、温かい雫が伝いました。
「泣かないで、せんせ……」
ギリルが私の涙を唇で拭います。
この先もずっと、彼は私が泣く度にこうして涙を消してくれる、そんな予感を信じられそうな自分に、私は苦笑しました。
「いいんです、嬉し涙ですから」
私の言葉に、新緑の瞳が揺れました。
揺れた瞳に強い光が集まり、命の輝きを増します。
ギリルはとても真剣な眼差しで、私を真摯に見つめました。
彼を包む空気が美しく透き通ってゆく様を、私はまだ微かに見る事ができました。
おそらく、私の目が元の色に戻る頃にはこれも見えなくなってしまうのでしょうね。
それだけが、私は残念でした。
燃えるような赤い髪を揺らして、ギリルが言いました。
「師範。俺、ずっと師範のそばにいるから。俺が絶対、師範を幸せにするから」
力の込められた言葉は、私の心を強く揺らします。
ああ、貴方はそうやって、何度でも私に誓ってくれるんですね……。
「絶対、ですよ?」
私の言葉に、ギリルは破顔しました。
「絶対だ!」
「では、お願いしますね」
誓いの言葉を、私は今度こそ両手で全て、受け取りました。
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