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部屋で

俺は、男の持つ六本の触手で、逃れようもなくベッドの上に縫い留められていた。 ぬるり、と男の腕とも言える触手が俺の足首に絡み付く。 器用な触手達によって、すでに衣服は薄いシャツ一枚を残して剥ぎ取られていた。 ぷよぷよとしたゼリー状の触手は、薄く滑らかな皮に包まれていて、ぴたりと肌に吸い付いてくる。 俺が全力で閉じていた脚は、左右の足首に絡み付いた触手の、見た目よりもずっと強い力によって、じわりと開かれた。 「せ、先輩……っ、本気……なんですか……っ!?」 思わず上げた声は、自分が思うより情けない響きだった。 「何だよ、お前死ぬ気なんだろ? そんなら、死ぬ前にちょっとくらい世話になった先輩に恩返ししたっていいんじゃねぇの?」 ゆるやかに波打つ瑠璃色の長い髪を白い布でぐるぐると頭にまとめた男が、深い翠色の瞳を細めて返す。 風呂上がりだからか、目の前の男からは、ふわりと良い匂いがした。 動揺を隠すように、俺は視線を逸らす。 「それ、は、そうかも知れないです、が……」 「よし、同意したな」 「いっ、いえ!! 同意はしてま――っっ」 途端、ゴボッと勢いよく口の中に飛び込んできた触手に、俺の言葉は途切れた。 「安心しろ、ちゃんと良くしてやるよ」 「んんっ、むうぅううんんんっっ!!」 俺の抗議の声に気付かないそぶりで、先輩は俺の股間を別の触手で撫で上げる。 人肌より少しだけ冷たいそれにゆるゆると優しく何度も撫でられて、俺の意思とは裏腹に、そこはじわりと熱を持つ。 「立ち上がってきたな」 それは先輩が触るからだと言い返したかったが、口はまだ塞がれたままで、さっきと大差ない呻き声が漏れただけだった。 背を冷たい汗が伝う。 こんなこと、きっと現実じゃない。 悪い夢だ。きっとそうだ。 だって、先輩は……まあ横暴な方ではあるけど、だからって、こんな強姦みたいなことをするような人じゃない。 それに、先輩は胸の大きなお姉さんが好きだ。 俺みたいなヒョロめの、しかも男を抱くなんて、絶対趣味じゃないはず……。 目の前で、俺のものを撫でていた触手が形を変える。 今までも任務や訓練で繰り返し見ていたその動きが、なぜか酷く異常に思えて、ぞくりと背筋が震える。 触手の先端は内側へと引っ込み、その先だけが筒状になると、透明な筒が俺のものへと覆い被さった。 緩やかに立ち上がったその全体を包み込まれる感触に、小さく息が詰まる。 「っ……っ」 「ん? 息苦しかったか?」 先輩は、ほんの少し気遣うように俺の口に突っ込んだままの触手を浅く挿れ直す。 これに思い切り噛みついてやれば、この人はこの行為をやめてくれるだろうか。 想像してから、噛みついた途端にその触手から溢れる液体で息が詰まるのは自分だと理解する。 死にたいとは思っていたが、流石にそんな死に方は遠慮したい。 そう思う間にも、先輩の触手は俺のものを包み込み、ピッタリと密着したまま扱き始める。 「……っ、んぅ……っ」 感じた事のない感覚に、思わず上擦るような息が漏れる。 「なんだ、可愛い反応すんじゃねーか」 先輩が、翠色の瞳を細める。 窓から差し込んでいた夕陽はすっかりその光を弱めて、かわりに机の上にひとつきり置かれたランプの灯りが小さく先輩の瞳に入っていた。 薄暗い部屋の中で、先輩は触手でゆるゆると俺のものを扱きながら、俺のシャツのボタンを外してゆく。 下から二つほどボタンを残したまま、先輩はシャツの中へと両手を差し入れた。 ひやりと冷たい指先に、思わず肩が揺れる。 「そんな心配しなくても、優しくしてやるって」 ニヤリと笑って言う先輩の指先が、言葉よりもずっと繊細に、俺の胸元を這う。 くすぐったいくらいにふわふわと触れるか触れないかくらいの力で撫でられて、なのに、くすぐったさとは違う甘い感覚が腹の奥に溜まる。 ……知らなかった……。 この人が、こんなに優しく肌に触れるなんて……。 「ぅ……、く……、ん……っ」 下半身へ直接与えられる刺激と、上半身へ優しく繰り返される甘い愛撫に、知らず息が上がる。 「んっ、んんっっ。ん、ぅ……っ」 「顔が赤いな。人に触られるのは初めてか?」 耳元で揶揄うような、どこか俺を気遣っているような、そんな先輩の声。 低く囁かれると、震えた鼓膜までがジンジンと熱くなってしまうようで、どうしようもなく恥ずかしい。 こんなの初めてに決まってる。 恋人なんて、居たこともない。 ……いや……彼女が。 俺にとって、最初で最後の、恋人だった……。 胸に甦る彼女の姿は、あの頃のまま変わらなくて、俺より五つも年上だったのに、もう今の自分よりずっと幼い姿をしていた。 俺は、感傷に大きく揺らいだ心を、悟られまいと目を逸らす。 「まーた昔のこと思い出してんのか?」 言い当てられて、先輩を見れば、翠色をした小さな瞳が俺をいたわるように優しく見つめていた。 ぶっきらぼうな言葉と、俺様な態度。なのにいつも、三白眼の小さな瞳は優しげで、年下の俺達の面倒を何だかんだと見てくれる。 その余裕綽々な横顔に、俺はいつも自分が小さく思えてしまう。 「お前の馬鹿な考えは、俺が理性と一緒に飛ばしてやるよ」 ニッと八重歯を見せて笑った先輩が、低い声で楽しげに囁いたその内容を、俺は一瞬遅れて理解する。 いやっっ、それは結構です!! 「んんんんんっっ!!」 俺の叫びは、やはり口に突っ込まれたままの先輩の触手を震わせただけだった。 途端、口の中で触手が姿を変える。 先端がいくつもに分かれて、ぬるりとした感触の指ほどの太さの物が俺の口内を撫で回す。 「んぅぅっ!」 初めての感覚に目を見開けば、先輩は小さく笑った。

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