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◎初めてだったらしい

社員寮の一番端の部屋、そこがあいつの部屋だった。 気安く扉を叩けば、中からおずおずと声が返る。 俺より一回りほど若い後輩は、ほんの少しだけ扉を開けて俺の顔を認識した途端、勢いよく扉を閉めた。 その反応に、思わず苦笑が漏れる。 ガチャリと内側からかけられた鍵の音を嘲笑うように、鍵穴へと触手を流し込む。 カチャ、と軽い音で鍵を外して扉を開ければ、あいつは俺から精一杯距離を取ろうとしたのか壁側へ背をつけて、動揺の滲む表情で俺を見上げていた。 俺よりずっと細くて白い身体は、触手で両手足を拘束してしまえば、もうそれ以上大した抵抗をしなくなった。 寮は壁だってそんな厚かねぇ。大声で叫べば、すぐに誰か駆け付けるだろう。 けどこいつはそうしなかった。 服を剥ぎ取れば、青年の腹部には俺の頭だってすっぽり入りそうなほどのでかい口が赤々としたその内側をチラリと見せ、その手前には触れる全てを切り裂くかのように鋭い牙が並んでいる。 本当に嫌なら、この口で俺の魂なんて一瞬で食えるはずだ。 そうしないって事は、いいって事だよな? まあ、お人好しで押しに弱いこいつが、こうグイグイ来られちゃ断りきれないだろう事も、分かっちゃいるけどな……。 自嘲を飲み込んで、俺は青年の口内に押し込んだ触手の先へと意識を集中させる。 先端を指ほどの太さに分けて、質感は柔らかく。 青年が口内の異変に目を見開いて、くぐもった悲鳴を上げる。 「んぅぅっ!」 そんなにビビらんでも……。と思ってから、こいつにとって口の中は物を入れる場所ではないことに気付く。 ああ、食べ物すら入れたことのない場所だったのか。 それじゃ、もっと優しくしてやる方がいいか……。 六つに分けたその先端で歯列をゆっくり、優しく撫でてやる。 「んっ…………、ぅ、ん……っ」 上顎を内側からなぞって、舌の裏や付け根を優しく押してやれば、青年は榛色の瞳に薄っすらと涙を滲ませ、白い頬を朱に染めて俺を見上げた。 その表情に、思わずごくりと喉が鳴る。 なんだお前、可愛い顔すんじゃねぇか。 改めて眺めれば、青年は白くきめ細かい陶器のような肌に、淡白だが整った目鼻立ちをしている。細い眉に、つり目だが瞳が大きく黒目がちなところは、こいつを歳よりも幼く見せている所以だろうな。 淡く輝くプラチナブロンドの真っ直ぐな髪を指先ですくえば、それはサラサラと指の間をこぼれ落ちた。 俺の、太くうねった髪とは大違いだな……。 「ぅ……くぅ……、ん……」 口内を掻き回されて、青年が喘ぐように声を漏らす。 意外と可愛い声が出るもんだな。 まあ、こいつは元から声もそんな低くねぇし、鼻にかかるような声ならこんなもんか? その声がもう少し聞きたくて、俺は後輩の口から触手を抜いた。 「や、め……っ、ぁぁっ……せんぱ……ぃ……」 はぁはぁと荒い息が鼻先を掠めれば、思わず背中にぞくりと熱が上がる。 いや、俺がその気になってどうすんだよ。 口元に浮かんだ苦笑いを隠すように、俺はマルクスの耳元に顔を寄せる。 「感じるか?」 囁けば、息の詰まるような音と共に、青年の肩が小さく揺れる。 「ぁ、……んん、っ……」 恥ずかしそうに小さく首を振るくせに、俺に囁かれた耳は真っ赤に染まる。 こんな素直に反応されちゃ、たまんねぇな。 ゆるゆると扱いていたマルクスのモノへ速度を増せば、マルクスは、それから少しでも逃れようと身を捩った。 「や、あ、ぁぁっ、も、ぅ、出ちゃ……っっっ!」 焦りを浮かべた声が、それでもどこか甘く響く。 ギュッと目を閉じたマルクスの身体に力が入る。 「出しちまえよ」 俺の声に応えるように、青年のそれが怒張する。 「ぁ、出ちゃ……、っっ出ちゃぃ、ま、す……ぅっっっ、んんんんっっっ!!」 なんだ、こんな時までお前は敬語なのかよ。 苦笑を滲ませて見下ろせば、俺の触手の中に青年の吐き出した液体が白く透けて見える。 そういや俺も、人のもん扱いたのなんて初めてだったな。 最後まで出せるようにゆるゆると扱きながら、青年を見れば、青年はギュッと閉じてしまった瞳をうっすらと開いたところだった。 伏せられた淡い金のまつ毛が、まだ戸惑いを隠し切れずにふるふると揺れている。 ……まだまだだな。 もっとこいつが、嫌な事全部忘れちまうくらい乱してやらねぇと、意味がない。 アレを使うか……? こいつはこのままでも十分敏感そうだし迷うとこではあるが、どうも根が真面目過ぎるからな……、使っとく方が理性は飛ばしやすいだろうな。 ちょっと強烈かも知んねーけど、ま。使ってみるか。 俺はそう決めると、深部で調合した特殊な体液を、触手の端へと送り出す。 青年の口に突っ込んでいた触手を、細くした先端のまま青年の足の間へと潜り込ませると、青年がびくりと腰を揺らして怯えるように俺を見上げた。 「先輩……」 不安そうな顔で、俺に乱暴されてるってのに、榛色の瞳はまるで俺に縋っているような色をしていた。 その顎を引き寄せて、吸い寄せられるように口付ける。 「!?」 驚きに見開かれた瞳を見て、ようやく自分が何をしたのか気付く。 内心慌てながらも、何ともないフリをして顔を離せば、青年が信じられないモノを見るような目で俺を見た。 いや、俺も実は、自分で自分に驚いてるんだけどな。 つい……、なんつーか空気にあてられたっつーか……。 お前が可愛く見えちまったんだよ。 青年が榛色の瞳にじわりと涙を浮かべる。 ……おい、そんなに俺にキスされたのが嫌だったのか? 「お……俺……、っ……は、初めて……」 青年から、ぽつりと涙とともに零された言葉は、俺に罪悪感を抱かせるには十分だった。 「うえ……、マジか。……えーと……、悪りぃ。その……」 思わず視線を彷徨わせれば、青年はじっと俺を見つめた。 「……何で……。先輩……、何でこんなことするんですか……」 言葉の終わりが小さくなって、青年はじわりと俯いた。 あー……。なんかその『信じてたのに』みたいな空気はザックリくるな。 「俺はお前を、まだ死なせたくねーんだよ」 ぶっきらぼうに答えて、俺は指ほどの細さにした触手の先端で、こいつの閉じかけの穴の入り口を探り当てる。 「ひ、ぁっ」 びくりと腰を浮かす青年が、少しでも俺から逃れようとしているようで、俺は両手両足だけでなく、腰にも慎重に触手を巻きつける。 「先輩っっ、んぐっ――」 焦るように声を上げようとする口を、俺はもう一度触手で塞いだ。

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