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電撃
先輩の触手が、また俺の口内で枝分かれして、それぞれぬるりとした感触に変わる。
それらに舌を絡め取られれば、言葉は完全に奪われた。
柔らかな先輩の触手が、俺の口内を余すところなく犯そうと蠢く。
初めての感覚に、俺はどうしようもなく翻弄される。
「ん、ぅ……っ、んっ……」
生まれてこれまで、口の中に物を入れる事が、そもそもなかった。
食事をしないので、歯だってただの飾りで、磨く必要もなかった。
だから、こんな風に内側に触られる事は、今までなかっ――。
「んんんっ!!」
突如、下腹部に刺さる違和感と圧迫感。
口内で蠢く触手に気を取られているうちに、先輩の別の触手が俺の内側へと侵入していた。
「こいつは……、ほんとに狭いな……」
先輩が、俺の足首に巻きつけた触手で俺の足を持ち上げるようにして、俺の穴を確かめるように覗き込む。
ぎちっと音が聞こえそうなほどに、そこは先輩の細い触手の先端を一本挿し入れられただけで、限界を訴えていた。
腰を持ち上げられ、力尽くで脚を開かれ、覗き込まれる恥ずかしさに羞恥に震えていた俺の耳に、信じられないような言葉が聞こえた。
「ま、穴はここだけじゃねーか」
…………そんな……まさか。
いや、聞き間違いかも知れない。
そんな。先輩が、……そんな……。
不安と恐怖で息が苦しくなる。
不意に、俺の内に入り込んでいた先輩の触手が脈動した。
「……っ!」
身体の中に何かが吐き出され、じわりと広がる。
俺より体温が低いはずの先輩から注がれた何かが、じわじわと熱を帯びるように熱く広がる。下腹部全体に熱が染み込んでゆくような感覚に、身体が震える。
「んっ、んぅん、ううんうんんっ」
何をしたのかと問いたかった。
けれど舌を動かせないままの声は、言葉にはならなかった。
「ん? 何を入れたのかって? お前よく分かったな」
先輩が、翠の瞳を細めて言う。
「お前くらい敏感なら、無くても良かったかも知んねーけどな」
……なんだろう……。
考えようとする頭が、どうしてかうまく回らない。
口内を塞がれて息苦しさがずっと続いていたから、酸欠になりつつあるのかも知れない。
先輩が、人型の手で俺の頭を撫でる。
ずっしり重くて、大きな手。
「お前は昔っから、生真面目で頭の固い奴だったよな……」
先輩の翠の瞳に、ランプの灯りがチラチラ揺れている。
俺の榛色の瞳とは全然違う、濃くて透き通った小さな翠眼は、煌めく宝石の粒みたいで、俺はいつも綺麗だと思っていた。
俺がまだここへ来てすぐの頃。魂を食らう俺は、分かる人に言わせれば、死を酷く間近に感じて本能的に避けたくなる気配がしていたらしい。
今では、その気配も自分で抑える事ができるようになったけれど、当時はまだ何も知らなかった。
『なんだお前。ひょろっとしてんのに、物騒なモン抱えてんなぁ』
そう言って、俺の気配に気付きながらも避けずに頭を撫でてくれたのが、先輩だった。
あの頃既に先輩は前線に出ていて、俺の知らないことを沢山知っていて、憎まれ口を叩きながらも、慣れない寮生活に苦戦する俺の様子をちょこちょこ見に来てくれて……。
「マル、おい、聞こえてるか?」
問われて、ハッと顔を上げれば、先輩が心配そうに俺を覗き込んでいた。
あ……。先輩……。
先輩の顔にホッとして、それからようやく、今の自分の状況を思い出す。
「量は加減したつもりだったんだがな……、ちょい効き過ぎたか……?」
先輩が苦い表情で首を捻れば、その右耳で金色の細い棒を束ねたようなピアスがシャラシャラと涼しげな音を立てた。
なんだっけ……、何か……、そうだ、俺、薬を入れられて……。
先輩はその体内で、毒薬を作ったり解毒剤を作ったり、色々器用な事が出来る。
俺も、熱を出した時や毒にやられた時に、薬を作ってもらった事があった。
『顔が赤いな、熱でもあるのか?』
そう言って、先輩は触手の先から小瓶に薬を入れてくれた。
先輩は、自室にいるよりサロンにいる方がずっと多くて、その前を通ればいつも何だかんだと声をかけてくれた。
『なんだ、そんな辛気臭い顔して、何かあったのか?』
『……顔色が悪いな、ちゃんと寝てるか?』
『お前はいつ見てもほっそいなぁ。しっかり飯食ってんのか? 今夜は外に食いに行くか。お前の金でな』
そんなことを言われて、よく絡まれていた。
俺はいつも困った顔で返事をしていたけれど、本当は、声をかけてくれることが、いつも有り難かった……。
なんだか頭に霞がかかったように、俺はどこかふわふわと現実味を失っていて、昔の事ばかりが思い出されてしまう。
頭を撫でていた先輩の手が、俺の頬を撫でて、首筋をなぞって、ゆっくり降りてゆく。
それだけで、先輩の指が通ったアトに、ふつふつと肌が粟立つような感覚が走る。
「んっ、んんっ……、ぅ……」
先輩は、俺の口内を塞いでいた触手を慎重に抜き取った。
「は……ぁ……」
そっと出てゆくその感触にもなぜか酷く煽られて、俺の息は上がってゆく。
腹の奥がじくじくと膿んだように熱を持って、けれどそこから伝わるのは痛みじゃなくて、息が詰まるほどの快感だった。
「……ぁ、ぅ……、ぁあ……」
頬も頭も、湯に浸かっているように熱い。
先輩のひやりとした指が、俺の鎖骨をなぞって、胸を優しく撫でる。
「ぅ……、く……、んん……っ」
ぞわぞわとした感触に、腰が浮きそうになる。
おかしい……、こんな……。
突如、ビリッとした強烈な刺激に襲われ、肩が跳ねる。
「ぅあっ!?」
何事か分からずそこを見れば、先輩の指は俺の胸の突起を摘んでいた。
「な、ん……で……」
なんで……こんなところを摘まれたくらいで……?
理解できない俺の声に、先輩が顔を上げる。
先輩は、大柄な体躯を窮屈そうに屈めて、俺の胸元へ顔を寄せようとしていた。
「お前は全部が初めてか」
そう言って、困ったように苦笑する。
「悪ぃな、初めてが俺で」
俺に苦い苦笑をひとつ残すと、先輩は俺のはだけたシャツの中へと顔を埋める。
先輩の肩から零れた、うねった紺の髪の先が、俺の腹に開いた大きな口の牙に当たって、チリッと一瞬で焼き消える。
「あ、せんぱ、い危な……っ、ぁああっ!!」
先輩の舌が俺の胸を這う。強い刺激にびくりと身を捩りそうになるのを、必死で堪える。
俺の腹に開いた口に触れてしまうと、全てが消えてしまう。
口を、閉じなければ……。
そう思っているのに、腹の口はじわりと緩んで中々閉まり切らない。
「せん、ぱ……い、っは……離れ、て、ください……」
上がる息の合間からやっと伝えれば、先輩は俺を見て苦笑した。
「地獄の門まで緩んじまったか。こりゃ確かに危険だな……」
言いながら、先輩は俺の両腕をそれぞれ吊り上げていた触手を重ね合わせるようにして、一本の触手で俺の両手首を縛り上げると、スゥと目を細める。
ああ、これは、先輩が集中するときの顔だ……。
「ちょいとばかし、拘束させてもらうぜ」
先輩の翠の瞳に小さく稲妻が走る。
次の瞬間、俺の全身に衝撃が走った。
「つぅっ――!!」
ビリビリと刺さるような感覚に、ぎゅっと腹の口が閉まったところへ、先輩の触手が一瞬で巻き付く。
「これで大丈夫だ」
先輩の言葉にホッとしたのも束の間、身体に落ちた小さな稲妻に、電気の走った痕がじりじりと疼き出す。
「は……っ、ぁ……、……?……」
その疼きは、全てが快感へと変わり、俺の全身を包んだ。
「あ……っ、ああぁっ!? っっあぁぁぁあああああぁあああっっっ!?!?!?」
何が起きているのか分からないままに、俺の身体は熱に焦がされて、腹の奥に向かってぎゅうぎゅうと収縮し始める。
「や、あっ、ああああんんんんんんんんんんんんんんっっっっ!!!」
自分の意思とは全く違う力で、一瞬の間に追い詰められる。
内側が大きく痙攣すると、さっき吐精したばかりの俺自身も、その先端からとろりと白濁した液体を零した。
……触れられても、いないのに……?
どうして……。
頭の隅に浮かぶ疑問も、まだ痙攣を続ける身体が霧散させてゆく。
「お前……、電撃に感じたのか……?」
先輩の、低く掠れた声。
ぼんやりした頭で見上げれば、先輩はじっと俺を見つめていた。
なんだろう……、先輩の気配が、いつもと少し違う。
目が合うと、先輩は俺から目を離さないまま、ごくりと喉を鳴らした。
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