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◎願い。

後輩は、俺に撫でられたまま今夜も眠りについた。 すぅすぅと静かな寝息が二人だけの狭い部屋に聞こえ始める。 俺は音を立てないように、静かにベッドから身を起こす。 こんな毎日を、あとどのくらい続けたらいいのか。俺には止め時が分からなくなっていた。 視線を落とせば、マルクスの淡いプラチナブロンドの柔らかな髪が目に入る。 俺とは大違いの、色白できめ細かな肌をそっと撫でれば、後輩は口元をむにゅむにゅと動かして「せん、ぱい……」と漏らした。 なんなんだお前は。夢ん中でも俺を呼んでんのかよ。 じわりと胸に広がる喜びに気づかないフリをして、俺は今夜も静かに部屋を出た。 こんな、俺に身を委ね切ってるような奴の隣に長居してちゃ、こっちの理性が保たねぇよ……。 消灯を過ぎた暗い廊下を、俺は足音を消して歩く。 正確には、日中がわざと足音を出して歩いてるようなもんで、俺の体質からすれば足音を立てずに歩くことの方がよっぽど容易かった。 明後日からは休日だ。明日の晩は、またあいつが甘えてくんだろうな……。 あれからあいつは、俺の言った通り、週末にだけ俺を求めるようになった。 ……いや、素直過ぎだろ。 つーか、平日は抜きたくならねぇのかよ。俺の手前、我慢してんだろうか。 最中の、あいつの蕩けた顔が脳裏に浮かんで、俺は立ち止まる。 『先輩……、先輩の、俺に、入れないんですか……?』 あいつの言葉が耳に蘇る。 甘くねだるような声で。まるで俺を欲しいと言われたようで。 「……それは、また今度な」 断りきれなかった俺の曖昧な言葉に、あいつは涙を滲ませたまま嬉そうに笑った。 「また今度……」と確認するように呟いたマルクスは、確かに何かを期待しているように見えた。 何度も、こいつになら……、もしかしたら……、と思った。 だが、その度に思い直した。 本当の俺を受け入れられる奴なんか、結局どこにも居やしないだろう。 俺は俺と同じ体をした奴に出会うまで、このまま人のフリを続けるしかない。 この、人に溢れた世界では……。 ……まあ、俺と同じ体の奴がこの世にいるかどうかも、そもそも分かんねーけどな。 俺はため息をひとつ吐くと、止めていた足を動かし始める。 こんなふうに、二本の足で歩いてるように見せるために、俺がどれだけ苦労したのか。 どれだけ辛い思いをして、人と同じような見た目を装ってるのかなんて、誰も知らないし、知りたくもないだろう。 俺だって、もうそんなことを誰かに伝えるつもりもない。 ただ、どうか……、あいつの彼女とやらが、もし、もう一度あいつに会えたなら。 一度目と同じように、あいつを受け止めてやってほしい。 あいつの本質を知っても、逃げ出さないでいてやってほしい。 それだけが、切実な願いだった。

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