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溶けてしまえたら
先輩の胸板は厚くて、筋肉がむっちりと隆起していて、俺の貧相な体とは全く違っていた。
すごいな、と思ってから、これは全部擬態なんだと気付く。
俺の知っている先輩の姿は、そのほとんどが擬態で、先輩の本来の姿じゃないんだ……。
俺は……、いや、チームの誰もが、先輩の素の姿は見た事がないと言っていた。
あのチーフ仲間の大柄な人は、先輩を昔から知っているようだけれど、彼は見た事があるんだろうか。先輩の、本当の姿を……。
前にチームの誰かが先輩に尋ねていたけれど『ああ? 別に大したこっちゃねーよ。俺は全身触手と同じような感じなだけだ』と返事をされただけで、先輩にその姿を見せる気はなさそうだった。
そんな事を思い出しながら先輩の胸を撫でていると、微かに立ち上がりかけた胸の突起を指先が掠めた。
びく、と先輩の触手が一斉に揺れて、先輩が反応したのが分かる。
擬態でも、俺と同じように、先輩も感じるんだろうか。
それを確かめるようにそこを二度、三度と撫でれば、先輩の胸の突起は次第にピンと立ち上がり、硬くなってゆく。
「……っ」
頭上で微かに熱い息が漏れて、俺は嬉しくなった。
俺にも、先輩を喜ばせることができるかも知れない。
そう思うと、もっと感じてほしくてたまらない気持ちになって、俺は先輩のシャツをグイと上まで持ち上げる。
「俺を……その気にさせたら、お前、……自分がどうなるか分かってんのか?」
どこか苦しげな声に問われて先輩を見上げれば、翠の瞳はなぜか悲痛な色で俺を見つめていた。
俺がこくりと頷けば、先輩の瞳は一瞬悲しげに揺れた。
どうして……。
どうして先輩は、そんなに苦しそうな顔をしてるんだろう……。
不思議に思いながら、先輩の胸の突起を先輩にされたようにぺろりと舐めてみる。
びくり。と、もう一度、先輩から生える触手達が揺れた。
それがなんだか嬉しくて、俺はいつも先輩がしてくれるように、先輩のそれを舐めて、舌先で転がしてみる。
何かを舐めた事なんて、今まであっただろうか。
先輩が口の中に入れてくる触手と、先輩の指の感触しか、俺はまだ知らない。
先輩のように優しく歯を立てることは、まだ手加減がわからなくて上手くできそうにないから、俺はただ懸命に丁寧にそれを舐めた。
「っ、お前の舌、柔らかすぎんだろ……っ」
言われて少し考える。確かに俺の舌は発音のためにあるだけだから、日々食事で使う他の人達ほど筋肉が発達してないのかも知れない。
「喋る時も、どっか舌ったらずだと思ってたんだよな……」
熱を宿した吐息混じりの先輩の声……。すごく色っぽくて、背筋が震えてしまう。
「ぁ……せんぱぃ……」
思わず先輩を呼べば、俺の声に応えるように先輩の触手達が俺の身体へまとわりついてきた。
それが嬉しくて目を細めれば、先輩の指が優しく俺の頬を撫でてくれる。
その間に、二本の触手が俺のズボンを剥ぎ取り、シャツの中へも入り込む。
あれから俺は、週末には先輩が来るより先に、自分で拘束帯を巻いていた。
もう二度と、先輩の触手の色を変えてしまいたくなかったから。
あっという間に、先輩の触手達は俺の身体のあちこちに張り付いて、それぞれが良い所を刺激し始める。
「ぁあっ、んっ、ぅ、ぅん……っ」
思わず声が漏れて、俺は仕方なく先輩の胸を撫でていた手で自分の口を覆った。
「よし、良い子だ……」
先輩の声が、俺の耳元で俺を褒めてくれる。
そのまま水音と共に耳の内へと舌を差し込まれて、全身の肌が粟立つ。
「んんっ、んんんんんんっっ、んぅぅぅ……っ」
胸へも、俺自身にも、それぞれ別の触手がまとわりついて柔らかく刺激を送り続けている。その上で先輩の触手の一本が、俺の内へとゆっくり入り込んでゆく。
「ゃぁ、ああんっ、ぅううぅうん……、せんぱ、い……っ」
俺が……、俺が、先輩を気持ち良くしたかったのに。
そんな悔しい気持ちすらも、快感に滲んで朧げになってゆく。
「こら、ちゃんと口押さえとけよ」
言われて、俺はもう自分の声を抑えるだけで精一杯になった。
「んっ、んっ、っ、んんんんっっ」
俺の内側を、先輩の触手が繰り返しかき混ぜる。
先輩の触手はぷよぷよしていて、優しい。
質量が増える度に圧迫感は与えられるけど、痛みを与えてくることはなかった。
ぐずぐずに蕩けた俺の内側が、ひくひく蠢いているのが分かる。
もっと……もっと、強くしてくれていいのに。
もっと、酷くしてくれて、いいのに……。
毎晩の行為に慣れてきた俺の身体は、先輩の優しい愛撫を歯痒く感じ始めていた。
「んっ、……ぅ、せんぱ……、せんぱぃの、が、んんっ、……ほ、ほしぃ、です……っっ」
荒い息の合間から必死で訴えれば、先輩の翠の瞳がまた惑うように揺れた。
「今度……て、言っ……っ、んんんんんっっ」
グッと奥を突かれて、弾けるような快感に息が詰まる。
答えを口にしない先輩が、痛みを堪えるような顔で俺をじっと見つめる。
まるで睨んでいるような顔付きなのに、その瞳だけが酷く頼りなげで、俺は、それをなんとかしたくて先輩の頬へ手を伸ばす。
「せん、ぱ……、ぃ、ど……っ、んっっ、どう、して……っっ」
俺の言葉に、先輩はじわりと動きを止めた。
「俺は、お前みたいに人型じゃない。元の姿に戻らなきゃ、性器は出ねぇ」
吐き捨てるような先輩の言葉。
俺は、真っ赤な顔のまま、微笑んで頷いた。
「……っ、俺の精液は人には毒だ。精莢が刺さりゃ痛ぇし、痺れるし……下手すりゃ……」
「その時は、せんぱいが、解毒してくれれば、だいじょうぶですよ……」
任務では、そんなシーン今まで何度だってあったのに。
そんなに心配しなくても、異種姦ともなれば、痛い目に遭う覚悟くらいはしているのに……。
「く、そ……っ、お前、絶対後悔すんなよ……?」
「はい」
俺が笑って応えれば、先輩は俺につられるように、なんだか泣きそうな顔で苦笑した。
どくり、と俺の内で先輩の触手が脈打つように蠢く。
あ……、これ、また、おおきくなっ……っっ。
「ぅぅんっ!」
内側を今までにないくらい広げられる感覚に、思わず身を縮めてしまう。
「じゃあまずは、俺のを飲み込めるくらいお前の穴を広げてやらねぇとな……?」
先輩が顔を寄せて、俺の耳元でざらりとした声で囁く。
先輩の声が、俺の背を甘く痺れさせる。
ぁあ……、先輩のは、もっと大きい、ん、だ……。
水音を立てて、先輩の触手が俺の内へと出入りする。
「んっ、ぅんんっ! ンンッ、んぅぅぅっっ!」
ここが、もっと広がれば……、先輩のが……もらえる……。
期待が、感度を上げてゆく。
ぎちぎちになったそこが擦られる度、震えるほどの快感が溢れた。
「……もう一つの穴も、使わせてもらうからな?」
え……?
戸惑いを浮かべる俺に、先輩は動きを止めると口端を上げて言う。
「俺のは一本じゃねぇんだよ」
え、と……、確かに、枝分かれしてる種もあるとは聞いた事がある、けど……。
「二、本……?」
上擦る声で尋ねる俺に先輩は意地悪そうに笑って答えた。
「四本だな。まあ別に全部入れる必要はねぇが、二本くらい入れたっていいだろ?」
「え……、分から、な……」
お尻の穴なんて、霊体のカスくらいしか排出した事がない。
物体を通したこともないその場所に、そんな大きな、先輩の物が入るんだろうか……。
「安心しろ、じっくり慣らしてやるよ」
言葉と同時に、先輩の触手がするりとそこへ先端を這わせた。
「ぁ……、ゃ……っ!」
初めての感触に、身体が勝手に怯えてしまう。
「こっちの方が、もっと狭いか……」
入口を撫でる先輩の呟きが、俺の鼓膜を揺らす。
「ぅぅ……」
先輩は俺の顔をチラと見て、滲んでしまった俺の涙を親指の腹で拭うと、俺の髪に優しく口付けた。
「大丈夫だ。痛くねぇようにしてやるから。もうちょい力抜いてろ」
「ん……、っ……はい……っ」
ズズズ……と、ひんやりした先輩の触手が体内へと入り込む。
よほど細くしてくれたのか、感じるのは違和感だけで痛みは無いけれど……。
「んぅ、ん、んんん……っっ」
なんだか、お腹が、前も後ろも、先輩の物でいっぱいになって……。
はち切れ、そうで……。
「ぅぁ……、ぁんんんんんんっ……」
俺の後ろに意識を集中させていた先輩が、それ以外の場所へ這わせていた触手をまたじわりと動かし始める。
あ、ダメだ、そんな、全部一緒に、動かした、ら……っっ。
「んっ、ンンッっ、んぁ、ぁ、ぁぅぅんんんんっっっ」
一気に押し寄せる快感に、あられもなく身を捩る。
頭もお腹もジンジンして、痺れるぐらいに気持ち良い。
口を押さえる手からも、力が抜けてしまいそうで、俺は慌てた。
「まっ、て……せんぱ、ぃ、待って、くださ……」
「ん? どうした」
「ぁんっ、も……そん、な……したら……」
先輩が、じわりと触手の動きを緩めながら、俺の話を聞こうとしてくれる。
「声が抑えらんねぇのか?」
「……っ」
コクコクと必死で首を縦に振れば、滲んだ視界の向こうで、先輩がふっと笑った気がした。
「しゃーねぇな、俺が塞いどいてやるよ」
途端に、俺の口の中に先輩の触手がいっぱいに詰め込まれる。
「んゔっっ!」
口の中に入ったそれは、俺の口内を蹂躙し始めた。
「ん、んぅ、ゔゔ……っ」
うあ……ぁ……、口の中まで、気持ちイイ……っっ。
胸も、前も後ろも、その間まで、全部を先輩に責められて、もう自分でもどうなっているのか分からなくなってくる。
「んっ、んっ、ンンッっ、んんんっ!」
先輩が、俺の限界を察してグンと速度を上げた。
「――ゔゔんんんんんんっっっっっ!!!!」
俺の前から白濁した液体が吐き出される。
それなのに、熱は収まる様子がなくて、内側に入れられたそこが熱くてたまらない。
ただただ気持ちが良くて、このゾクゾクする快感にもっと浸っていたくて、もっともっとと勝手に腰が揺れてしまう。
先輩が、内側から一番敏感なところを突き上げてくる。
「んんっっっ、んんんんっっっっっ!」
前の吐精につられるように、内側が止まらない収縮を始める。
「ンンンーーーーーーーーーーっっっっ――――っっっっ!!」
先輩の太い腕が、俺の腰を支えてる。
俺の後頭部を支えていた先輩のもう片方の腕が、俺を引き寄せて、先輩の柔らかい唇が、俺の首に口付けた。
ぁ……、っ、きもち、よすぎて、……っ、とけて、しまいそう、だ……。
俺が……俺がもし、本当にとけてしまったら……。
きっと、きっと先輩、が……。
パチパチと火花の弾ける視界の向こうで、先輩がどこか幸せそうに笑っているような気配だけを感じる。
『俺がもし、液化してしまったら……、先輩はどうしますか……?』
心で尋ねれば、先輩はニヤリと笑って視線で返した。
『俺が一滴残らず取り込んでやるよ』
ああ、いいな……。
俺がどろどろにとけてしまえたら、先輩と本当に、一つになれるんだ。
そしたら、もう、寂しい夜なんて二度と来ない。
そんな酷く幸せな幻を見ながら、俺は意識を手放した。
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