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 どれほど時間が経ったろう。  泣き疲れて喉も枯れた。タマさんはずっと寄り添ってくれて、ぐすぐす鼻を啜る僕が再び口を開くまで待っていた。 「すいません、ありがとうございます、タマさん……」 「いえ、いいえ。元はといえば私が……」 「いいえ。タマさんは悪くなかった。心からそう思っています。だからあなたも、どうか」 「……シノさん……」  それは僕の本心だと、思う。今となっては、それすら曖昧だけれど。  僕が見ていた、僕の全ては。どうやらどこか、歪んでいたらしいから。もしかしたら、嘘だったのかもしれないけれど。  タマさんを憎いとは、今でさえ感じない。彼もまた、悲劇の被害者でしかないのだから。  そして……今タマさんに寄せる感情は、そればかりではない。 「……僕の……」 「あなたの?」 「……僕の幸せは、あなたが幸せであることですよ、タマさん……」  その言葉に、タマさんは「し、シノさん」と驚いたように声を上げる。 「しかし、それでは何も……!」 「いいえ。それでいいんです。だって、だってですよ、タマさん」  恐らくひどい顔をしているから、タマさんに見られたくはないけれど。こればかりは、眼を見て言わなければ伝わらないだろう。僕は熱い顔をタマさんに向けて、その瞳を見つめた。 「あなたは、僕のことが好き……なんですよね?」 「えっ、あっ、はい……」 「僕も、あなたが好きです」 「はっ、あ、はい……⁉」 「なら、僕たちの前にはもう、共通の幸福がひとつ存在するじゃあないですか」  僕の言葉に、タマさんは眼を丸めて固まった。しばらくして「えぇっ」と裏返った声を上げ、僕に向かって身を乗り出す。 「シノさん、そ、それというのはっ、あっ、いたたたたた……!」 「あっタマさん」  突然タマさんは眉を寄せて痛みを訴え始めた。どしたのかと一瞬心配になったけれど、なんのことはない。正座していた足が、痺れきってしまったようだ。フローリングの上に長時間正座していたのだから、当たり前だろう。 「ああ、ああ。だから布団を使っていいと言ったのに」 「いや、お、お恥ずかしい限りです……いたたた……」  痺れた足を刺激しないように、姿勢を変えてあげていると、タマさんはまた心底申し訳なさそうな顔をする。僕は苦笑して、タマさんの体を抱きしめた。 「でも。そんなタマさんだから、僕も心を開けたのかもしれないですね……」  過ぎていったことを、ずっとずっと胸に抱いて悩み続けるような。そんな、弱くて優しくて、けれどどうしようもなく強い人だから。  僕も、この人の隣にいたいと思ったのかもしれない。 「どうか、これからもそばにいさせてはくれませんか、タマさん」  ぎゅっと抱きしめて尋ねると、タマさんは慌てたように首を振った。 「そ、それはこちらのセリフです」 「タマさん」 「私と一緒にいてくれませんか……そして、どうか幸せにさせてください」  タマさんの言葉に、僕はゆっくりと頷く。それでいい。いや、それがいい。  僕たちは随分と長い時間、ふたりの気持ちをわかり合い、分かち合うように抱きしめ合っていた。その温もりは随分前に失ったものに似ていて、離しがたい。  この優しくてもろい命が愛おしいのは、きっとこれまでに失くしたものを、そしてこれから失くすものを想うからだろう。温もりが僕らを溶かし、ひとつになれたらもう失うことも無いのに、きっとそうでないからこそ、求め合い愛し合うのだ。  随分詩的なことを考えてしまった。心の中だけで苦笑していると、タマさんが僕の腕から離れていく。  彼はまたかしこまるように正座しようとして、止めた。その代わり、できる限り姿勢を正して、切り出す。 「……あの。少し、ご相談があるのですが……」  

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